日本が衰退する原因は、短期的な経済政策、例えば、地方創生、規制緩和、政治と金の問題、経済安全保障、子育て補助制度、などではなく、本質的には、「人口減少」と「アニマルスピリッツの低下」によるものだ。短期的な理由はあまり問題とはならず、同様に短期的経済政策は長期的にはあまり影響を与えない。Wikipediaによると、「アニマルスピリッツ」は、ケインズが1936年の著作『雇用・利子および貨幣の一般理論』で用いた用語で、経済活動にしばしば見られる「主観的で非合理的な動機や行動」を指す。ケインズは、次のように述べている。
投機による不安定性のほかにも、人間性の特質にもとづく不安定性、すなわち、われわれの積極的活動の大部分は、道徳的なものであれ、快楽的なものであれ、あるいは経済的なものであれ、とにかく数学的期待値のごときに依存するよりは、むしろおのずと湧きあがる楽観に左右されるという事実に起因する不安定性がある。何日も経なければ結果が出ないことでも積極的になそうとする、その決意のおそらく大部分は、ひとえに血気(アニマル・スピリッツ)と呼ばれる、不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果として行われるのであって、数量化された利得に数量化された確率を掛けた加重平均の結果として行われるのではない。
とすれば、アニマルスピリッツには、若さゆえに発生する無謀さと行動力が必須である。経済活動はデータに基づく数学的な合理性に則って決定され実行されることが良いとされる。しかし現実には、不活動より活動に駆り立てる人間本来の衝動の結果であり、そうした不穏で首尾一貫しない心理を、ケインズは「アニマル・スピリット」と名付け、経済に与える影響を重視した。アニマルスピリッツは、「血気」「野心的意欲」「動物的な衝動」とも訳される。アダム・スミスの「神の見えざる手」が、古典派経済学の文脈で、経済の安定性が実現する原理と説明するものならば、ケインズが言う「アニマル・スピリット」は資本主義経済において不安定性が顕現する原理を説明するものといえる。
もちろんベンチャー企業が、新たに事業を行う際に、厳密な計算に基づいて行う「ふり」をしていることは確かである(そうしないと投資が集まらない)。事実ベンチャー企業家は成功した後にコメント求められるとそれらしい理屈を言う。しかし、ベンチャー企業家は、事業を始める際に、その目的が社会を良くすることだったり、金儲けのためだったり、単に目的もなく何かで成功したいからだったりするとしても、起業する原動力は計算高い理屈にあるのでなく、湧き上がる感情にあることは確かである。周囲が止めるのも振り切り、ひたすら前に進むのだ。自分では成功すると思っているだろうが、周囲はそうとは思わず、止めるのである。このような荒々しい企業家がいるから、シュンペーターの言う「創造的破壊」が起こるのだ。
このような起業家は、やってもやらなくても同じ結果なら、やる方を選ぶ。常に、活動的になりたいのである。この様な起業家と投資家(※1)が一体となることによって経済に活力が生じる。しかし問題は、この様なシステムにあるのではない。システムをいかに設計しても、経済の活力はひたすら活動したい「アニマルスピリッツ」を持つ人間がどの程度存在し、社会がその存在を是とするかどうかによるのである。現実的には、安全を重視する日本で、このような「アニマルスピリッツ」は急速に衰退していることが問題だ。そして、取り戻すためには、社会全体のリスクを取る雰囲気が不可欠である。しかし、高齢化して人口減少に陥っている日本では、もはや望むべくもないのかも知れない。
※1:投資家の論理は明らかである。リスクとベネフィットを天秤にかけ、確率的に優れているかどうかによって投資判断を行う。そこには、アニマルスピリッツはあまり必要とはされない。
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