高齢者介護施設の経営に関する考察1

1.施設管理者評価の必要性

高齢者介護施設の経営では、法令遵守、雇用の安定、収益性拡大など、求められる要件が多岐にわたります。これらの要件を充足しつつ、最良の福祉サービスの提供を目指すのであれば、施設に所属する職員のチームとしての取り組みが必要になります。よって、チームを組成する上で鍵となる施設管理者の評価・育成に焦点を当てて「どのような施設管理者が優れているのか」というテーマについて、現場での観察から結論を求める事にしました。

2.観察の方法

限られた期間で結論を構築するため、対象施設管理者群を離職率や評判等に基づき、「優れている」とされる1割の施設管理者と、それ以外の9割に区分します。客観的・定量的に比較できる行動時間、行動内容のうち、事業形態や施設固有の特性に起因する行動を除去し、差異の観察を行いました。「人柄が優れている」、「傾聴姿勢が素晴らしい」、「性格が優しい」等の定性的要素は、評価上の制約から一切考慮していません。

3.確認された差異

確認された差異は1点のみ。
「専門職種間との双方向コミュニケーションが高頻度で継続している」点だけでした。
専門職種間とは、施設管理者が、計画作成担当職・介護職・看護職・事務職など多くの専門職種群と広範に偏りなくかかわっていることであり、双方向コミュニケーションとは、業務についての報告や意見を聞く事と、並行して自ら具体的な指示を発しているという意味です。高頻度で継続とは、施設管理者の思い付きや業務都合に拠ることなく、例えば毎週特定日にミーティングや面談を行ったり、日々施設内巡回を行い、状況把握と指導を行っている等の行動が定例化している事を指します。 

4.その他の差異

定性的要素についても差異の確認を行うなどして、観察範囲を広げることでより多くの必要条件を発見できるでしょう。例えば、双方向コミュニケーションでの聞き方、伝え方、伝える内容などが追加の必要条件として確認される事が予想されます。

5.差異の活用

施設経営を大規模展開する場合、「優れている」とされる1割の施設管理者と、それ以外の9割の施設管理者との差異を解消し、「優れている」施設管理者を10割に近づけていくことが必要となります。
人材教育において、資質や人柄に対して働きかけるのは容易ではなく、直接的かつ客観的に外部から変えられるのは「行動」のみであることから、①施設管理者の行動を観察し、②行動上の差異を本人に提示し、③差異解消に必要な行動の計画化を求め、④実施状況に基づく差異の変化をフィードバックして、さらなる差異の解消を促すことが必要と考えます。

6.最後に

差異が必要条件である「確からしさ」を検証するには、母集団の拡大による追加の観察手続きが必要となります。併せて、逆説的アプローチとして十分条件を確認するためには、上記5の取り組みが必要であり、相当程度の期間を要するのは必至ではないかと思われます。

介護従事者髙田 浩一
証券投資、企業アナリスト、ポートフォリオ管理、財務諸表分析、米国財務諸表作成支援業務等に従事。その後介護ビジネスに対する事業分析・投資採算性のバリュー評価に興味を持ち、一介護職員として高齢者介護施設へ。並行して、複数の事業者が経営する高齢者介護施設の巡回視察を実施し、高齢者介護をニュートラルな視点で「見聞き」「体感する」ことで、施設のマネジメントに関する知見を深めていく活動を行ってる。
証券投資、企業アナリスト、ポートフォリオ管理、財務諸表分析、米国財務諸表作成支援業務等に従事。その後介護ビジネスに対する事業分析・投資採算性のバリュー評価に興味を持ち、一介護職員として高齢者介護施設へ。並行して、複数の事業者が経営する高齢者介護施設の巡回視察を実施し、高齢者介護をニュートラルな視点で「見聞き」「体感する」ことで、施設のマネジメントに関する知見を深めていく活動を行ってる。
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