「医療的ケア児」の地域におけるインクルーシブな支援体制の構築に関する国際比較【橋本財団2021年度研究助成 成果報告】

「医療的ケア児」とは、医療の進歩を背景として、新生児集中治療室(NICU)等で命を救われたが、引き続き人工呼吸器や胃ろう等を使用し、たんの吸引や経管栄養などの医療的なケアが、日常的に必要な児童を指し、現在全国に約2万人いると推計されている。なお、そのうち6割が医療的ケアを常時必要とする重症心身障害児(「超重症児」、「準超重症児」と称する)で、残り4割が法の枠外に取り残されてきた狭義の「医療的ケア児」と、両者の中間(重症心身障害かどうか判定される前の状態等)である。(図1)


(図1)医療的ケア児と重症児(超・準超重症児)

2016年の児童福祉法の改正に続き、2021年には「医療的ケア児及びその家族に対する支援に関する法律」(「医療的ケア児支援法」)が制定され、同年9月に施行された。医療的ケア児及びその家族が、個々の心身の状況等に応じた適切な支援を受けられるようにするために、保育及び教育の拡充に係る施策、その他必要な施策並びに「医療的ケア児支援センター」の指定等が定められ、国として喫緊の課題となっている。

岡山市にある社会福祉法人「旭川荘」の重症心身障害児施設「旭川児童院」では、1970年代から他施設に先んじて、施設入所に加えて重症児通園や短期入所、在宅訪問看護・療育に組織的に取り組み、在宅・地域生活を支えてきた。

さらに、長期入所を最小限にし、地域で可能な限りインクルーシブな暮らしを実現するには、早期からの手厚い在宅・地域支援が何よりも優先して整備されねばならないと考え、2019年に「ひらたえがお保育園」を開設した。医療的ケアを日常的に必要とする児童を含め、障害を抱える乳幼児を定員90人の15~20%程度、インクルーシブに受け入れて、その特性や成長に合わせた保育を進めてきた。

今回、橋本財団より研究助成をいただき、「医療的ケア児」とその家族が地域において安心して暮らせるためのインクルーシブな支援体制を構築することを目的とした調査を行った。

その成果は以下のとおりである。
(1)「ひらたえがお保育園」では、日々の実践経験と、保護者を対象に実施したアンケート調査の結果を基に「医療的ケア児の受入れに関するガイドライン」を策定した。
(2)岡山市は「ひらたえがお保育園」を、国の「医療的ケア児支援促進事業」の対象にするべく努力して下さった。それに応えるべく看護師や保育士を国の基準以上に手厚く配置して対応した。もちろん法人の持ち出しである(表1)。その後、下記の努力等で、黒字化をみている。


 (
表1)「医療的ケア児支援促進モデル事業」への考え方

2021年、厚労省の「障害児通所支援の在り方に関する検討会(全8回)」で全国重症心身障害日中活動支援協議会を代表して委員に加わった代表者の末光は、現状を報告し、とくに看護師2名配置を要望し、国の負担アップへの道を拓いた。(図2)


(図2)厚労省 障害児通所支援の在り方関する検討会(オンライン会議風景)
2021年6月14日~10月13日(全8回)

(3)さらに、検討会で得た情報を基に、東京都内で区の支援を受けている保育園での「医療的ケア児」の保育実践を視察し、我が「ひらたえがお保育園」が先駆的チャレンジをしていることを確認した。「医療的ケアスコア」の最も重い47点の女児を1歳のときから、毎日早朝から夕方まで、インクルーシブに受け入れている。一方で東京都のそれは7人の医療的ケア児7人(人工呼吸器装着は1人のみで、それも2歳からの受け入れ)に看護師がマンツーマンでついているが、他児とは分離したクラス構成であった。(表2)


(表2)医療的ケア児の保育所(東京の区立保育園との比較)

(4)2023年2月にベルリン市でインクルーシブ保育に取り組んでいる保育所「Lebenshilfe」を訪問した。そこで園長のMusa Al Munaizel氏と意見交換するとともに、2023年10月18日にMusa Al Munaizel氏を講師に招き、岡山市内で、日本とドイツの医療的ケア児に対するインクルーシブな支援の実践と課題を学ぶ公開講演会を開催(参加者100人)した。

(5)2024年8月5日~8日にシカゴで開催された「第17回国際知的・発達障害学会(IASSIDD)世界会議」において、「日本の医療的ケア児」に関するシンポジウムとKey Note Lectureで ”good practice for people with PIMD” の題で報告した。日本の医療と福祉の一体提供を可能としている制度と熱い思いで現場実践にチャレンジしていることに対して高い評価を得た。

(6)2024年10月5日に横浜で開催の日本発達障害学会の自主シンポジウムに、「医療的ケア児の生涯発達のためのインクルーシブ保育・教育への挑戦」が採択され、上記の実践成果と課題を報告した。

機関・グループ名:社会福祉法人 旭川荘
旭川荘総合研究所
代表者名:末光茂

(公財)橋本財団研究助成 成果報告
福祉助成金(研究)成果報告です。
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