なぜ、総選挙の争点が移民の是非に及ばないのか?

日本の人口は、2024年1月1日時点で、1億2488万5175人だった。これは外国人を含めたものである。それでも1年前と比べ、53万1702人、率にして0.42%減っている。日本人のみの人口は、1億2156万1801人で、1年前と比べ、86万1237人、率にして0.7%減っている。ちなみに、同じく少子化が激しい韓国では2023年の国内総人口は前年比0.2%増の5177万人と、3年ぶりに増加に転じた。これは、移民によるものである。日本の出生率(合計特殊出生率)は、前年度1.2であり、韓国は0.72とさらに低い。2.0以上でないと人口が保てない。

GDP(国内総生産)の要素は、投資、人口、生産性である。これらの関係は、人口が減少すると消費が少なくなり、投資も減少する。このような日本にとって唯一の頼みは生産性の向上であるが、人口の減少時には平均年齢の上昇を伴っているので、アニマルスピリッツの低下、つまりケインズの言う「不活動よりは活動に駆り立てる人間本来の衝動」が低下する。国がいくら勧めようと、新しい分野への事業発展は弱くなっている。結果的に、人口の減少(人口の高齢化)によって、生産性の向上も望めない。人口減少が続く限りは、この悪いサイクルは続く。今後人口減少が続いても、もとに戻るだけであり、一人あたりのGDPは同じようになるとの指摘もある。しかしそれは、世界の他の国との関係がなく、日本のみが単独で生きている場合だ。例えば、経済が沈滞してアニマルスピリッツが低下すると、他の国の産業に打ち勝つことは出来ない。結果的に今まで優位であった産業も衰退する。せいぜい観光や古い文化が残りそれを拠り所にするだけだ。

この状況を打開する方法が移民の導入だ。しかし、先進的な欧州の例を見るまでもなく、日本のような「大国」では、人口減少に見合う移民の大量導入は大きな危険をはらんでいる。日本人の平均的な意見としては、「あまり多くの外国人は困る」というところだろう。これは日本が特殊な例とは言えない。例えば、韓国でも、人口減少対策として「移民政策」を推進することに「同意しない」と答えた人は60.6%で、「同意する」の39.4%を上回っている。おそらく日本でも同様だ。しかし、現在の状況は深く静かに外国人労働者の増加が続き、今や年間22.6万人の外国人労働者が来日している状態でさらにその数は増えている(外国人の増加は30万人以上)。

外国人が増加すると犯罪が多発するわけではない。しかし、外国人の犯罪は大きく報道され、日本人にとって不安が増す。現在、日本での外国人問題は、観光地でのオーバーツーリズムや、一部の宗教的な摩擦に留まっているが、外国人数が急速に増加すると、日本人との摩擦は避けられない。

現在のように移民問題を無視し、人口減少に対しては移民を対象とせず、ひたすら少子化対策に頼ろうとする態度は不適当である。もちろん少子化対策は社会保障の柱として行うべきであるが、少子化対策によって人口減少は解決しない。「移民問題は存在しない」のではなく、現実を見るなら、できるだけ早めに移民問題を国民の議論に委ねる必要がある。そして、ナショナリズムの強い日本で「移民問題はどうなるのか」総選挙の大きな争点として取り上げる必要があるのだ。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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