経済の考え方において、「統制」か「自由」かの選択を強いられる場合がある。社会民主的(リベラル)政策には、統制を幅広く行う傾向にあり、国家の介入による統制では、経済の成長は少ないと考えられる。その反対に新自由主義的な考えでは、規制を出来るだけ少なくして自由な市場を目指すべきであるとされる。確かに、経済成長は自由な市場が前提条件のようだ。自由な市場では格差が拡大することは避けられない。しかし、経済成長を目指し、経済成長が達成された後、人間の幸福度が上がっていったかといえば、必ずしもそうではない。確かに、餓死し、貧困で身売りするような悲惨な状態は先進国ではなくなったが、人間の幸福感は経済成長とともに基準が引き上げられ、幸福感を感じられない人も多い。むしろ、幸福感は心理的な要素が大きくなっているようだ。そもそも人間は長期的な視点からは幸福になり得ない存在であると言える。つまり、「死すべき存在」から抜け出すことが出来ないのが人間である。そうすると、幸福は「短期的」な願いになる。幸福への願いが短期的なものに限られると、どうしても、経済的な充足が幸せ感と同期すると政治家は考える。
もちろん、人間の本質を考え、なすべきことを行い、それらを持って充足した状態を幸福と見なすことが、大切であることを否定するものではない。しかし、政府によって、人間の倫理的な問題を解決することは出来ない。それは社会心理的問題であり、個人的問題でもある。政府の仕事は、直ぐ目の前の視点から、国民を侵略や犯罪から守ることに加えて、経済的なゆとり、豊かさを提供することに限られるのは仕方ないことかもしれない。次のグラフ(図1)は、縦軸が幸福度、横軸が一人あたりの名目GDPを表している。男女別に示しているが、ほぼ同じような傾向だ。つまり、一人当たりGDPが2万ドル以下の場合には、幸福度は人によって大きな違いはあるが、2万ドル以上になると、概ね幸福でないと感じる人はほとんどいなくなってくる。
(図1)GDPと幸福度
World values survey 6 IMF
国民が幸福を感じるためには、一定の経済力を持つ必要があるようだ。図1のグラフでは、縦軸が幸福度、横軸が一人あたりのGDPとなっている。横軸の一人あたりのGDPが20,000ドル以上、つまり現在の円ドルレートでは、300万円/年収では幸福度の低い人が男女ともにいない(丸で囲った部分)。つまり、すべての国民が、年収300万円以上の生活を送ることが出来るように、最低限度の生活を底上げするような政策が大切であることを示している。それには原資が必要で、経済成長によってその資金は調達される。経済成長と最低限度の生活の引き上げを同時に行うのがフレキシキュリティ(flexicurity)だ。つまり、自由な市場と十分な社会保障政策だ。
フレキシキュリティ(flexicurity)は、労働政策の自由化と、最低保証の底上げを狙ったものである。そこには新自由政策でもなく、社会民主主義的政策のみでもない、新しい考えが盛り込まれている。最低限度の生活を底上げすることをまず目標として、その手段を自由な労働政策に委ね、経済を活性化する方法だ。解雇規制を柔軟化する代わりに(解雇に際しての金銭解決金も引き上げる)、失業保証を手厚くする。そして、労働者に対する最低限度の生活を底上げするためには、最低賃金の引き上げが必要であり、そうすると生活保護の支給下限も引き上げられることになる。ただしその財源は、労働市場の活性化によって豊かになった国民生活からもたらされるはずである。労働規制の緩和のみで経済の活性化は出来ないが、成長産業への自由な労働者の移転によって、ゾンビ企業の淘汰は進むだろう。
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