日本は太平洋戦争以後、国力が明らかに上昇傾向にあったアメリカの占領を受け、占領解除とともに、日米安全保障条約をアメリカと締結し、ひたすらアメリカを先導者として見なす習慣が染み付いた。どちらかといえばヨーロッパは過去の国々で、参考にすべきことは少ないと思われた。しかし、21世紀に入り、産業だけでなく、文化的な側面あるいは社会保障的な面の重要性が増すと、長い歴史を持つ日本との比較検討する対象として、同じく文化的に長い歴史を持つ欧州の国々が重要であると思われるようになった。
日本の経済的問題は、失われた10年、20年、30年にあると言われる。これは、1990年を頂点として、そのバブル崩壊から回復できない状態を指している。なぜ日本が失われた〇〇年と言われるようになったのか? 比較する対象を北欧諸国(デンマーク、スウェーデン、フィンランド、オランダ)として、現実に代表的な指標を取り、その経過を考えてみよう(ノルウェーを外したのは、北海油田という特殊なファクターでの豊かさがあるから)。
図1は、国ごとの1980年からの一人当たりGDPをグラフ化したものだ(日本だけを破線で示している)。1980年の時点では、ドル換算での一人当たりGDPがこれらの国と日本は、ほとんど同じであることに気づく。その後の1990年代の日本でのバブル崩壊、北欧諸国での金融危機にも関わらず、10年単位では概ね2000年まで、同じような水準を続けている。北欧の国々と比較して、日本に変調が起こったのは、2000年代から現在までである。それでもなお、2010年までは、なんとか同じような位置を保持しているが、2010年代からこれらの国と日本との間に異変が生じ始めている。
(図1)
筆者作成
ただし、このグラフは、ドル換算で示している。そのために、日本の一人当たりGDPの伸び悩みは、円安によって示されたのではないかという懸念がある。事実、日本の1990年代なかばにおいての、一人当たりGDPの伸びが著しいのは円高の進行によるものだ。(図2)は、円ドルレートを右軸の単位で、掲載している(緑色グラフ)。2010年前後に円高になっている(そのために一人あたりのGDPのドル表示が高くなっている)のを除けば、円ドルレートはこの期間において1ドル110円前後で安定している。ただし、最近の(2022年以来)の円安は、ドル換算での一人当たりGDPのドル表示の低下を示していることは確かだ。
(図2)
筆者作成
結論は次のとおりである。1980年から2000年まで20年間は、日本のバブルの崩壊、北欧の金融危機にも関わらず、長期間の推移では、日本と北欧の一人当たりGDPは同じような推移を示している。しかし、2000年に入り、北欧諸国と日本の差が生じ始め(日本では、経済の低迷に対しての金融緩和が続いていた時期だ)、特に2012年頃からは日本の成長率の低迷と、北欧の成長率の差異が激しくなっていることに気づく。その結果、現在では、北欧諸国は一人当たりGDPが50,000ドルから70,000ドルに対して、日本では35,000ドルから40,000ドルに低迷している。この差異がどこから生じているのかを明らかにしなければならない。折しも、その時期は日本が超金融緩和を行い、それに加えて予算の大盤振る舞いを行った安倍政権の時期である。大幅な緩和策を行ったにも関わらず、北欧と差が生じたのは、経済の緩和策が成長に繋がらなかった証拠である。北欧との間で、大きな差がついた理由が問題なのだ。
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