留学生の個別背景を活かした就職活動

日本で大学等を卒業する留学生の進路は、日本で就職、起業、大学院進学、結婚、母国に帰国して就職と様々です。現在、私が担当する大学で留学生を対象とした在留外国人のキャリアを学べる専門ゼミでは、9割程度が卒業後に日本で就職を希望し、その就職活動のサポートをします。日本で就職の他には、起業、大学院進学、母国に帰国して就職等の進路を希望する少数の留学生もおり、個別のサポートを行っています。

就職活動のサポートは、大学を卒業して日本企業で働く元留学生が学生時代に力を入れたことや就職先を決めるまでのストーリーの紹介、履歴書の書き方の個別指導や個別面接の練習、少しでも選考にプラスに働くようにこれまで受験した日本語能力試験とBJTビジネス日本語能力テストの日本語能力の証明等の持参物の確認、公共職業安定所に行ったことがない留学生との施設訪問、就職の在留資格変更の方法についてのアドバイス等、多岐に渡ります。

このような就職活動のサポートを行っていると、留学生の就職先が決まるまでの経由について学ぶ機会に恵まれます。例えば、就職先が決まるまでの経由には、日本人学生と同じように就職情報サイト経由や、アルバイト先の正社員登用もありますが、留学生は同胞によるリファラル採用、同胞による縁故採用も多いのが特徴です。

日本人学生の方であれば、就職先が決まるまでに就職情報サイトを活用することは多いでしょう。一方、専門ゼミに所属する留学生の就職活動を確認していると、就職先が決まるまでの経由として就職情報サイトに偏らない傾向があります。就職情報サイトによる就職活動は、WEB登録での様々な確認手続きが必要であること、日本人のような姓名とは異なる名前の表で入力欄に悩むこと、母語対応できていない適性検査が多いこと、採用ステップが長く感じること等、留学生にとっては難があることが多くあります。また、日本企業独特の「新卒一括採用」に違和感を持っている学生もいるのが現状です。


図表1 就職先が決まるまでの経由(筆者作成)

図表1の就職先が決まるまでの経由で共通して大切なのは、留学生の場合は、まずは日本語能力です。留学生の新卒採用では、日本人学生の新卒採用と異なり、日本語能力試験N1(BJTビジネス日本語能力テスト480点以上と同等の取扱い)やN2(BJTビジネス日本語能力テスト400点以上と同等の取扱い)等の日本語能力の語学条件が示された求人が多いのが特徴です。

そして、留学生のN1やN2等の取得状況によっては、求人の選択の幅が変わってきます。例えば、ある大手の小売店や百貨店等の新卒採用を見てみると、留学生の新卒採用の場合は、N1等の日本語能力条件が記載されています。また、留学生の新卒採用では、新卒採用予定者の留学生同士の日本語能力から給与等において個別に差をつけることはなく、法律上の観点からも日本人と同等額以上の報酬を受けることが保証されています。留学生の就職後、外国人スタッフのビジネス日本語の向上を図るために、BJTビジネス日本語能力テストを資格奨励制度や人事考課に取り入れる企業が散見されます。

就職情報サイトや公共職業安定所の経由で就職先を決める留学生がいる一方で、アルバイト先の正社員登用や同胞によるリファラル採用、同胞による縁故採用等によって就職先を決める者もいます。

アルバイト先の正社員登用では、来日後の留学生活の中で長年、飲食チェンーン店や小売チェーン店等でアルバイトスタッフとして放課後に働き続ける中で、店舗管理者やオーナーから長年の日頃の仕事の取組みから信頼されるようになり、店舗にいなくてはならない存在として評価され、正社員登用の経由で就職先を決める者がいます。毎年、留学生の中には、就職情報サイトを活用した就職活動を踏まえて様々な業界の視野を広げて就職先を得たものの、悩んだ末に愛着のあるアルバイト先の正社員登用で就職先を選択し、正社員登用後は複数店舗の管理者等として活躍する者もいます。

その他には、同胞によるリファラル採用や縁故採用等によって就職先を決める留学生もいます。特に、コロナ禍による入国制限の際のインバウンド需要の減少で留学生向けの新卒求人が減少した時には、同胞によるリファラル採用で就職先を決める者が散見されました。コロナ禍が終息した後も、就職先の選択の幅を広げるために、就職情報サイトや公共職業安定所の活用と並行して同胞によるリファラル採用を活かす留学生がいます。

留学生の就職活動の方法を知ることは、就職活動のサポートを行う上で様々な学びがあります。それは、学業状況や放課後のアルバイトの取組み、同胞の様々な交友関係等の留学生活の全てが職探しに活かせる可能性を秘めており、それによって就職活動のサポートの方法も変わるということです。留学生によっては、必ずしも就職情報サイトの経由で最適な就職活動が行えるとは限りません。留学生の個別背景によっては、アルバイト先の正社員登用、同胞によるリファラル採用、同胞による縁故採用などから最適な就職活動を選択することやその組み合わせ等も活かしていくことも大切です。

1.山下誠矢(2024).『ニッポンを選んだ外国人留学生は今?-日本と母国の懸け橋となって』,日本橋出版。
2.公益財団法人日本漢字能力検定協会(2024).「BJTを知る 特徴&メリット」,https://www.kanken.or.jp/bjt/about/feature_merit.html,2024年6月20日にアクセス。
3.公益財団法人日本漢字能力検定協会(2024).「Voice 企業・教育機関」,https://www.kanken.or.jp/bjt/voice/co_edu/company/,2024年6月20日にアクセス。
4.出入国在留管理庁(2023).「令和4年における留学生の日本企業等への就職状況について」,https://www.moj.go.jp/isa/content/001407655.pdf,2024年6月20日にアクセス。
5.出入国在留管理庁(2024).「留学生の就職支援に係る「特定活動」(本邦大学等卒業者)についてのガイドライン」, https://www.moj.go.jp/isa/content/001413711.pdf,2024年6月20日にアクセス。
6.出入国在留管理庁(2024).「外国人留学生の就職促進に向けた運用等の見直しについて」,https://www.moj.go.jp/isa/content/001413915.pdf,2024年6月20日アクセス。
7.独立行政法人日本学生支援機構(2024) .「2022(令和4)年度
外国人留学生進路状況調査結果」,https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2024/05/data2022s.pdf,2024年6月20日アクセス。

日本経済大学 准教授山下 誠矢
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
群馬大学社会情報学部卒業。横浜市立大学大学院国際マネジメント研究科博士前期課程修了。修士(経営学)。企業でコンサルティング業務従事後、早稲田文理専門学校経営ビジネス系教員/教務主任等を経て、日本経済大学経営学部経営学科専任講師、准教授/教務部長補佐。現在、日本経済大学経営学部経営学科准教授。専門分野は、①経営学分野(経営学全般、コンテンツビジネス)、②異文化経営分野(留学生のリファラル採用、留学生の正社員登用、在留外国人の就労)、③キャリアデザイン分野(在留外国人のキャリア開発支援)、④留学生教育分野(ビジネス日本語、留学生の就職、留学生の起業、異文化理解)。
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