介護現場における人材確保~外国人職員受け入れの実態と成功事例~

現在、介護老人保健施設でケアマネジャーをしている渡口将生です。
これまで、
・20歳で介護福祉士を取得
・施設の介護士として約10年
・訪問介護の管理者
・資格取得スクール講師
・小規模施設の管理者
・施設相談員
・施設ケアマネジャー など
さまざまなポジションに就き、経験してきたことから、職員の教育やセミナー講師をしています。また、ライターとして活動しており、主に介護・医療メディアの執筆を行っています。

現在、日本で働く外国人職員のほとんどはアジア圏の出身です。特に、ベトナム・インドネシア・フィリピン・ミャンマーなどが多く、顔立ちが日本人に似ている特徴があります。ベトナム人の割合は全体の約4割を占めているのが現状です。

筆者の経験談

私の職場は、2015年から海外人材の確保を行っており、法人全体で50人以上の介護福祉士を採用しています。きっかけは、職員寮が空き家になっていたことでした。空き家の有効利用を目的に外国人職員の受け入れを始めたのです。相談員の私はいわゆる「なんでも屋」の立ち位置のため、外国人職員の引越しサポート(物件探しから契約など)や試験対策を行っています。

以前、工場に勤務予定で来日した技能実習のインドネシア人(6人の女性)を雇用したことがありました。
6人が働く予定であった勤務場所が倒産し、母国に帰るしか選択肢がない状況でした。それを私の勤める法人の理事が聞きつけ、介護見習いとして働きに来たのです。もともと、ベトナム人留学生を雇用し、学校の支援や資格のサポートをしていたため、抵抗はなかったのですが、インドネシア人の受け入れは初めてでした。彼女たちは、介護をしたくて来たわけではなかったため、日本語レベルも「N4(※1)」が2人いただけで、会話もままならないレベルです。このままでは日本で働けない状況になるため、私は毎日のように就業時間のうち、夕方1~2時間を確保し、日本語の勉強と働き続けるために「特定技能」の勉強を一緒に行いました。特定技能の資格取得に関しては、「介護専門学習のためのツール」を利用しました。日本語、英語、ベトナム語を含む13の言語の学習テキストがあります。その結果、5か月後、彼女たちは、無事6人とも特定技能に合格し、現在も一緒に働いています。日本語も上達し、他の職員・利用者・家族からも愛される職員へと成長したのです。特定技能を取得したことで、最長5年間、日本で働くことが可能となりました。6人のうち3人は、結婚や夢を叶えるため母国に帰りましたが、残りの3人は「介護福祉士」の取得を目指し、仕事と勉強を両立させています。

少子高齢化が進む日本では、介護職員の人材不足が大きな課題です。介護職員が不足することにより、「2025年問題」や「8050問題」などが問題視されています。

そんななか、人材確保のひとつとして、多くの事業所で外国人職員の受け入れが増えてきました。しかし、文化の違う海外の人材が、介護という専門分野で機能するのか疑問を持つ方も多いのではないでしょうか?今回は筆者の経験をもとに、外国人職員の受け入れの課題について考えました。

介護現場で外国人職員が働くメリット・デメリット

介護職員として外国人が働くことに抵抗を感じる方もいますが、外国人職員が働くことでさまざまなメリットが生まれています。

人材不足の解消

介護業界は慢性的な人材不足に直面しており、外国人職員の受け入れに力を入れている事業所は増加傾向です。多くの外国人職員は仕事熱心で献身的に働く方が多く、介護施設はより多くの利用者に質の高いケアを提供できるようになっています。特に外国人職員は、母国の家族に仕送りしたり、将来のために出稼ぎに来たりしているケースも多く、欠勤や遅刻が少なく勤勉な人材が多い印象です。

多様性の促進

外国人職員の受け入れは、施設内に多様な文化や価値観が生まれます。
外国人職員の柔軟な発想力は日本人の固定概念を崩すこともあり、学びに繋がることも多くあります。例えば、日本人が苦手とするオーバーリアクションは、話し手の気分を持ち上げるため、高齢者から多くの情報を引き出すことがあります。利用者にとっても新しい刺激となり、コミュニケーションの機会が増えることも期待できます。

離職率が低い

介護業界では、離職率の高さが問題となっていますが、外国人職員は離職率が低い傾向です。理由のひとつに、日本人よりも次の職場を見つけるハードルが高いことが考えられます。さらに、「母国を離れ日本の介護職員として働こう」という高いモチベーションが根底にあるため、すぐに諦めない強い気持ちを持ち合わせています。家族や自身の将来のために頑張っている姿は、日本人職員にも良い刺激を与えてくれます。

多くのメリットがある一方でデメリットに感じることもあります。

日本の文化やマナーがわからない

外国人職員が働くことで、文化や価値観の違いから、誤解や対立が生じる可能性があります。例えば、仕事の進め方や問題解決の方法が異なるため、理解に時間がかかることもあるでしょう。この問題を解決するためには、定期的な研修やコミュニケーションの機会を作り、日本の文化やマナーを伝えていくことが大切です。

長期で働く職員が少ない

外国人職員は就労ビザの問題などが原因で、母国に帰ることも少なくありません。そのため、日本にいられる期間は雇用側も常に注意しておく必要があります。日本で働ける期限が同時期の外国人職員を複数雇っている場合は、一気に欠員が発生し労働力不足が深刻化します。外国人職員は、「介護福祉士」の資格を取得すれば、永久ビザが取得できるため、資格取得のための勉強時間の確保や促しも重要なポイントになります。

言葉の壁

外国人職員が日本で働く場合、言語や文化の違いは大きなハードルとなります。介護現場では、迅速で正確なコミュニケーションが求められるため、日本語の勉強会や研修を実施することも必要になります。また、積極的に声を掛け、日本語に触れる機会を作り、安心してコミュニケーションをとれる環境作りが大切です。

受け入れ体制の整備と異文化理解

外国人職員を受け入れるためには、施設側の体制や環境整備が欠かせません。具体的には、異文化理解を深めるための研修や、メンター制度の導入などがあります。また、信仰する宗教に対しても理解しなければなりません。信仰が強い場合は、お祈りの時間を就業時間内に確保したり、顔を隠すヒジャブ(顔を隠す布)の着用が必要な場合もあります。
私の施設でも、初めての配慮(お祈り時間や場所の準備)が必要で、他の職員の理解を得る必要がありました。そのため、そのため彼女たちを人員としてカウントせずに配置(実質+1人)し、簡単な業務(シーツ交換などの補助)のみをしてもらったのです。こうすることで、お祈りや宗教上の配慮も気にせず業務についてもらえました。また、補助として配置したことで、他の職員との交流が生まれ、比較的早く受け入れ体制が整ったのです。他の職員から理解された頃には一通りの業務も覚え、人員としてカウントできるようになりました、お祈りの時間については、現場のスタッフ間(本人を含む)で毎日時間を決め、コントロールできるようになっています。

外国人職員の見極め

あたりまえのことですが、すべての外国人職員が勤勉という訳ではありません。
なかには、「遅刻ばかりで決まった時間に出勤しない」「嘘をつく」「攻撃的に接する」人材もいます。外国人職員だから目をつむる小さな事柄もありますが、一定のラインを超えている場合は、他の職員や利用者に支障が出る場合もあるため、注意が必要です。

最後に

外国人職員の受け入れは、介護業界の人材強化に大きなチャンスであると同時に、課題も伴います。受け入れ体制を整えておかなければ、仕事もコミュニケーションもできない人材となるだけで、他の職員の負担が増えてしまうでしょう。しかし、適切なサポート体制と環境があれば、多様性を活かした質の高い介護サービスを提供することが可能です。
課題はありますが、外国人職員の笑顔やパワーは、利用者だけではなく職員や事業所全体に力を与えます。今後も、海外の人材が「日本で働きたい」と思える環境を作っていくことが、介護業界の人材不足解消に繋がっていくでしょう。

 

(※1)日本語能力試験にはN5からN1まで5つのレベルがあり、一番難しいのがN1。

介護福祉士渡口 将生
介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。2019年3月にNHKの介護士の番組にメインで出演する。現在は、介護相談を本業としながら、ライター活動をおこなっており、記事の執筆や本の出版サポート、オンラインサロン「主体性サロン」運営など幅広く活動している。介護福祉士のほか、介護支援専門員・認知症実践者研修・福祉住環境コーディネーター2級の資格を持つ。
介護リーダーを育てる目的で、セミナーも開催中。
介護福祉士として10年以上介護現場を経験。その後、介護資格取得のスクール講師・ケアマネジャー・管理者などを経験。2019年3月にNHKの介護士の番組にメインで出演する。現在は、介護相談を本業としながら、ライター活動をおこなっており、記事の執筆や本の出版サポート、オンラインサロン「主体性サロン」運営など幅広く活動している。介護福祉士のほか、介護支援専門員・認知症実践者研修・福祉住環境コーディネーター2級の資格を持つ。
介護リーダーを育てる目的で、セミナーも開催中。
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