移民の数が著しく上昇している現在の状態は、将来に向けて非常に大切な時期である。現在日本に居住する外国人の数は、300万人あまり、日本人住民比率では2.5%程度に過ぎない。しかし、毎年30万人の外国人増加、そして毎年約150万人の日本人死亡、70万の出生の状態では、早期に移民の対日本人住民比率の増加が見込まれる。
現在の移民に対する考え方は、「同化政策」が基本となっている。なぜなら、日本政府は「移民」そのものを認めていないので、必然的に日本の文化、制度に外国人を同化させる方法を取らざるを得ないからだ。選択肢がないのだ。例えば、「移民」でなくても、数多く日本に居住している、外国人の子ども(6才から18才程度まで)に対する教育をどのようにするかについての基本的政策は合意されていない。日本の学校に編入し、日本人と同じ授業を受け(多くの外国人の子どもには理解できない)、多少の日本語教育を受けさせるのみである。これらは、「移民」を認めていない日本政府の政策によるものだ。
「同化政策」に対する「統合政策」とは、必ずしも多文化主義を徹底させる意味ではない。多くのエスニック・グループが、それぞれの出身国の都合や習慣を持ち、勝手に生活することは、社会の混乱を招き良い状態ではない。日本での生活を行う以上、共通の規範が必要となる。「統合政策」とは、「同化政策」と異なり、現在の日本の生活習慣や規則に、すべての外国人移民を従わせるのでなく、一定の線を引き、その範囲では、出身国の生活習慣を認めるものである。しかし、「統合政策」にとって、多文化主義を一定限度で認めること以上に大切な点は、日本での労働や就業に際して、外国人移民と日本人との差別をなくすることである。給与、労働、地位などの差別が、日本人の間でも未だに男女、あるいは正規社員と非正規社員の間に存在するが、「統合政策」においては、日本人と外国人移民との間で同様の差別が生じることを禁止しなければならない。男女の雇用や給与の差別に対して、男女雇用機会均等法が成立したように、日本人と外国人移民との間に差別を禁止する明確な法令が必要となる。「統合政策」は多文化主義からのアプローチも市民レベルでは必要であるが、政府は労働環境に着目して、日本人と移民との間の差別を禁じることによって、現状での「同化政策」に代わり、「統合政策」に転換しなければならない。
その点から言えば、来日時の技能実習生や、特定技能の入国者の賃金は、少しずつ改善されているが、未だに入国時の借金が非常に重くのしかかっている。仲介業者などへの支払いを一定の基準で管理できるような仕組みが必要だ。そして、一定期間日本に就業した後の地位や給与の上昇についても、日本人労働者との差別を解消しなければならない。県ごとに、あるいは市町村ごとに、外国人労働者の賃金が、同じような仕事を行っている日本人労働者と同等になっているかどうか調査しなければならない。現在では、年齢や就業期間の差異はあるが、一般的に見ると、外国人労働者は日本人労働者の73%程度の賃金に留まっている(図1)。
(図1)厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」より
日本では、男女雇用均等法、パートタイム・有期雇用労働法などによって保証されているはずの、男女間の賃金の不公平や、正社員と非正規社員の賃金の不公平を是正する動きが弱い。これらは、賃金調査の不徹底によるものだ。外国人に対しては、その是正を図るための法令さえ無いので、早急に差別解消の根拠となる法令が必要だ。
「統合政策」のもう一つの分野は、教育である。移民が家族を帯同することは、人権の見地からも必要なことである。家族を帯同する場合、子どもの教育が問題となる。労働や賃金について、日本人と同等の権利を保証することが「統合政策」の柱であるように、子どもの教育保障も大切な柱である。日本語が出来ない移民の子どもを、日本で適切に教育することも、日本政府の責任である。この場合は、日本語を前提とした「同化政策」に基づくものではなく、柔軟な教育プログラムが求められる。
そして、もう一つの大きな課題は、異文化理解を日本人の教育に取り入れることである。それは、外国人の子どもの自国文化を尊重するとともに、日本人の子どもに外国文化を学ばせる機会となる。その点で、日本人と同じ教育機会を提供することは、日本人の子どもにとっても有意義な体験となるだろう。
研究助成 成果報告の記事を見る
小林 天音の記事を見る
秋谷 進の記事を見る
坂本 誠の記事を見る
Auroraの記事を見る
竹村 仁量の記事を見る
長谷井 嬢の記事を見る
Karki Shyam Kumar (カルキ シャム クマル)の記事を見る
小林 智子の記事を見る
Opinions編集部の記事を見る
渡口 将生の記事を見る
ゆきの記事を見る
馬場 拓郎の記事を見る
ジョワキンの記事を見る
Andi Holik Ramdani(アンディ ホリック ラムダニ)の記事を見る
Waode Hanifah Istiqomah(ワオデ ハニファー イスティコマー)の記事を見る
芦田 航大の記事を見る
岡﨑 広樹の記事を見る
カーン エムディ マムンの記事を見る
板垣 岳人の記事を見る
蘇 暁辰(Xiaochen Su)の記事を見る
斉藤 善久の記事を見る
阿部プッシェル 薫の記事を見る
黒部 麻子の記事を見る
田尻 潤子の記事を見る
シャイカ・サレム・アル・ダヘリの記事を見る
散木洞人の記事を見る
パク ミンジョンの記事を見る
澤田まりあ、山形萌花、山領珊南の記事を見る
藤田 定司の記事を見る
橘 里香サニヤの記事を見る
坂入 悦子の記事を見る
山下裕司の記事を見る
Niklas Holzapfel ホルツ アッペル ニクラスの記事を見る
Emre・Ekici エムレ・エキジの記事を見る
岡山県国際団体協議会の記事を見る
東條 光彦の記事を見る
田村 和夫の記事を見る
相川 真穂の記事を見る
松村 道郎の記事を見る
加藤 侑子の記事を見る
竹島 潤の記事を見る
五十嵐 直敬の記事を見る
橋本俊明・秋吉湖音の記事を見る
菊池 洋勝の記事を見る
江崎 康弘の記事を見る
秋吉 湖音の記事を見る
足立 伸也の記事を見る
安留 義孝の記事を見る
田村 拓の記事を見る
湯浅 典子の記事を見る
山下 誠矢の記事を見る
池尻 達紀の記事を見る
堂野 博之の記事を見る
金 明中の記事を見る
畑山 博の記事を見る
妹尾 昌俊の記事を見る
中元 啓太郎の記事を見る
井上 登紀子の記事を見る
松田 郁乃の記事を見る
アイシェ・ウルグン・ソゼン Ayse Ilgin Sozenの記事を見る
久川 春菜の記事を見る
森分 志学の記事を見る
三村 喜久雄の記事を見る
黒木 洋一郎の記事を見る
河津 泉の記事を見る
林 直樹の記事を見る
安藤希代子の記事を見る
佐野俊二の記事を見る
江田 加代子の記事を見る
阪井 ひとみ・永松千恵 の記事を見る
上野 千鶴子 の記事を見る
鷲見 学の記事を見る
藤原(旧姓:川上)智貴の記事を見る
正高信男の記事を見る
大坂巌の記事を見る
上田 諭の記事を見る
宮村孝博の記事を見る
松本芳也・淳子夫妻の記事を見る
中山 遼の記事を見る
多田羅竜平の記事を見る
多田伸志の記事を見る
中川和子の記事を見る
小田 陽彦の記事を見る
岩垣博己・堀井城一朗・矢野 平の記事を見る
田中 共子の記事を見る
石田篤史の記事を見る
松山幸弘の記事を見る
舟橋 弘晃の記事を見る
浅野 直の記事を見る
鍵本忠尚の記事を見る
北中淳子の記事を見る
片山英樹の記事を見る
松岡克朗の記事を見る
青木康嘉の記事を見る
岩垣博己・長谷川利路・中島正勝の記事を見る
水野文一郎の記事を見る
石原 達也の記事を見る
野村泰介の記事を見る
神林 龍の記事を見る
橋本 健二の記事を見る
林 伸旨の記事を見る
渡辺嗣郎(わたなべ しろう)の記事を見る
横井 篤文の記事を見る
ドクターXの記事を見る
藤井裕也の記事を見る
桜井 なおみの記事を見る
菅波 茂の記事を見る
五島 朋幸の記事を見る
髙田 浩一の記事を見る
かえる ちからの記事を見る
慎 泰俊の記事を見る
三好 祐也の記事を見る
板野 聡の記事を見る
目黒 道生の記事を見る
足立 誠司の記事を見る
池井戸 高志の記事を見る
池田 出水の記事を見る
松岡 順治の記事を見る
田中 紀章の記事を見る
齋藤 信也の記事を見る
橋本 俊明の記事を見る