現在、介護老人保健施設でケアマネジャーをしている渡口将生です。
これまで、
・20歳で介護福祉士を取得
・施設の介護士として約10年
・訪問介護の管理者
・資格取得スクール講師
・小規模施設の管理者
・施設相談員
・施設ケアマネジャー など
さまざまなポジションに就き、経験してきたことから、職員の教育やセミナー講師をしています。また、ライターとして活動しており、主に介護・医療メディアの執筆を行っています。
日本の介護業界は、深刻な人材不足に直面しています。多くの事業所が求人広告費や人材紹介会社に依存し、結果として高額なコストが発生している状況です。介護職の採用と離職率の実態に焦点を当て、問題の根本原因と実用的な解決策を考察します。
人材紹介会社と費用の問題
現在、介護事業所の多くが人材不足を感じながら運営しています。人材不足から日々の業務が圧迫され、介護職員に大きな負担が生じている状況です。人材確保や職員の負担軽減のため、採用に力を入れている事業所も多くありますが、そもそも介護職員を目指す人材の減少から新規採用が困難な状況が続いています。さらに、歴史のある事業所では建物の老朽化などを理由に、新規職員の採用がより困難な状況が発生しているのです。
2023年度特別養護老人ホームの人材確保に関する調査によると、介護施設の70.3%が「職員不足」と回答しています。職員不足の原因として、「労働人口の減少」が挙げられており、地域によって影響は大きく異なります。さらに、人材紹介会社の手数料についても98.6%の施設が高いと感じており、正規職員1名当たりの手数料は平均91.7万円に達している現状です。退職状況については、入職後3年未満に退職する職員が54.6%と過半数を占めており、早期退職が大きな課題となっています。こうした状況を改善するためには、介護職員の待遇改善が必要です。特に、「基本報酬の引き上げ」が最も多く求められており、定着率の向上が期待されています。
一方で、人材紹介会社を通じて介護職員を採用する場合、事業所は成功報酬として職員一人あたり年収の20~30%を支払うことが一般的です。採用コストは他の業界と比較しても高く、そのほとんどは、介護報酬から賄われています。つまり、多くの税金が人材採用時に必要な「紹介料」に消えているのです。
高い紹介料は、結果的に介護サービスのコスト増加に繋がります。事業者はコスト削減のために「職員の給与」や「待遇改善に充てる資金」を抑えざるを得なくなり、さらなる人材不足を招く悪循環に陥ることもあるのです。しかし、介護サービスの報酬は厚生労働省で定められており、簡単に報酬を引き上げることは困難な状況といえます。
新規採用者の高い離職率
介護業界では、離職率の高さが大きな問題となっています。離職する主な理由は「思っていた職場環境ではなかった」「労働時間が長い」「低賃金で生活ができない」「職場での人間関係の問題」などが挙げられます。特に、肉体的・精神的な負担が想像以上であることにショックを受ける新人職員も多い傾向です。また、給与が低いことや労働環境が良くないと感じて退職する人も少なくありません。
そして、離職率の高さはサービスの低下や慢性的な人材不足を引き起こします。新入職員が入ってもわずか数ヶ月で離職するケースも多く、業界全体の労働力不足をさらに深刻化させているのです。現在、介護事業所は数多く存在しますが、そのほとんどが人材不足で頭を悩ませている状況があります。そのため、すぐに次の働き先が見つかる傾向にあり、離職しやすい職種ともいえます。
また、介護職場では多様な年齢層や資格を持つスタッフが共働しています。そのため、価値観の違いや世代間のコミュニケーションギャップが原因で人間関係が複雑化しているのです。コミュニケーションが取りづらいだけでなく、介護職場での居心地の悪さは、孤立感を引き起こし、結果として離職につながります。
さらに、介護の現場は身体的・精神的な負担が多くあります。しかし、事業所の職員に対するサポートが不十分な事業所も多い傾向です。人材不足によるシフトの長時間化や休暇の取得が通らないなど、働きやすい環境が整っていないことも問題となっています。事業所としても、「少ない職員数」「休みなどによる欠員」「定められた人員配置」「替えの利かないシフト」など、さまざまな理由から日々の業務遂行が困難な状況です。そのため、利用者のサポートで手一杯となり、職員への配慮まで気が回らないことも多くあります。
介護事業所は離職率の高さに対処するため、職場環境の改善に力を入れる必要があります。
例えば、新人職員に対してのメンターシステム導入・適切なワークライフバランスの促進・職場内のコミュニケーションを活性化するためのチームビルディングの実施などです。
働きやすい環境を作ることで、職員のやりがいや役割を持つことができ、離職を減らすことが期待できます。
介護職に対する給料の現状
介護職の給料水準は他産業に比べて低いと言われており、「低賃金」として知られています。このイメージは、業界の魅力を低下させ、質の高い人材や新規入職者の確保が困難になる原因のひとつです。国家資格である「介護福祉士」を取得しても給料が低いとなれば、誰も好んで介護の仕事をしたいと考えないのが普通と言えるでしょう。
介護業界の給料は一般企業と比較されることが多いですが、仕事の特性や必要とされる専門性、肉体的・精神的な負担が十分に反映されていないと考えられます。つまり、専門性の高い仕事であるにも関わらず、低賃金と言われている状況が問題なのです。他業種と同等あるいはそれ以上の専門性や労働力を要する介護職の報酬が低く設定されている現状では、今後も職員不足を加速させる要因となるでしょう。
介護職の給料を改善するためには、現状の見直しと政府や関連団体による具体的な支援が必要です。近年、介護職員の処遇改善加算が導入されたことにより、数年前より給与改善が図られてきました。2024年4月には、介護保険法が改正され、全体でみると「プラス査定」と発表されています。しかし、社会的な物価の上昇や・介護保険制度の厳格化・必要な業務時間の確保から考えると決して適正とは言えません。
政府は介護職の給与改善を図るための政策を策定し、早急に実行する必要があると言えるでしょう。一時的なものではなく介護サービスの質を保ちながらも、経済的に持続可能なモデルを構築することが重要です。そのためには、国が介護報酬を適正に設定し、介護サービスの質と直結させ、財源を確保することが求められます。
今後の介護業界が目指す先
介護業界は現状のままだと、さらなる人材不足を招くことになるでしょう。解決するためには社会的評価の低さを解決していく必要があります。介護業界の社会的評価を向上させるには、重要性と専門性を正しく理解し、広く社会に伝えることが必要です。メディアや教育機関を通じて、介護職の重要性と専門性をアピールし、業界への理解と魅力を深める取り組みが求められます。また、介護職の専門性と責任を反映した給与体系の見直しや職場環境の改善も大切なポイントです。
まとめ
介護業界が抱える深刻な人材不足と高い離職率により、経営が困難になる事業所も多くあります。労働人口の減少や高額な人材紹介手数料は、介護事業所の負担を加速させ、多くの事業所が影響を受けているのが現状です。人材紹介には多額の費用が必要ですが、早期退職することも珍しくありません。人材確保の問題を解決するためには、介護職員の処遇改善や職場環境の整備が不可欠です。具体的には、基本報酬の引き上げやメンターシステムの導入、キャリアサポートの強化が求められています。また、介護職の専門性と責任を反映した給与体系の見直しや、社会的評価の向上も重要です。今後、政府による持続可能な介護モデル構築が、介護業界の未来を支える鍵となるでしょう。
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