日本では1990年代から続く人手不足に対し、ブラジルやペルーなどからの日系人や技能実習生が対応してきた。特に技能実習制度は長い経過の中で、期間を3年から最長5年に延長、対象業種も増やし、2023年末、約40万人が働いている。更なる人手不足の対策として、2019年には特定技能制度も開始された。特定技能制度は労働者不足の12分野を対象とし、1号、2号の2段階制である。特定技能1号は在留期間最長5年、2号は在留期間の更新制限もなく、家族帯同も可能である。当初2業種(建築、造船・舶用工業)で開始された特定技能2号は、2023年6月9日の閣議決定で新たな対象分野が追加され11業種となった。特定技能の在留資格で日本に在留する外国人の数は、2023年12月末時点で、約21万人である。新制度ができた2019年4月から2024年3月までの5年間で約34.5万人を上限に受け入れ数を見込んでいたことからすると予測よりは下回っているが、2022年4月以降の伸びが大きく、政府の閣議決定により、2024年3月に特定技能の受け入れ見込数の再設定が行われた。2024年度から5年間の受け入れ見込み人数は82万人であり、大幅に増加させている。(*1)
2019年特定技能制度開始から5年が経過しようとしている。特定技能2号の試験も徐々に実施され、結果が公開されてきた。特定技能2号では「熟練した技能」が求められるため、各分野では2号移行に必要な技能試験を実施している。現在の特定技能2号の試験はどのように行われているのであろうか。
特定技能2号試験の合格率比較:どの業種が難しい?
特定技能2号の資格を取得するためには、職種ごとに定められた試験に合格する必要がある。しかし、これらの試験の難易度は職種によって大きく異なっているのが現状である。2019年以降、特定技能2号試験の実施状況について、2024年5月末までに各団体が公表した試験結果を集計した。最も受験者数が多い建設分野での受験者数は734名、合格者数は69名であり、合格率は9.4%である。次いで受験者数の多い製造分野では受験者数は624名、合格者数は325名であり、合格率は52.1%であった。(*2)
特定技能2号の試験の方針について確認してみると、受験資格、合格の基準も分野によって異なることがわかる。例えば外食分野の場合、以下の通りである。
外食業2号技能測定試験 抜粋
(2)外食業2号技能測定試験 我が国の外食業において、複数のアルバイト従業員や特定技能外国人等を指導・監督しながら接客を含む作業に従事し、店舗管理を補助する者(副店長、サブマネージャー等)としての、2年間の実務経験をした者が、本試験に特化した学習用テキスト等を用いた準備を行わずに受験した場合に3割程度が合格する程度の水準とする。
*外食業特定技能測定試験実施要領
https://www.moj.go.jp/isa/content/930005138.pdf
農業分野では2号農業技能測定試験への合格と工程管理経験2年以上、現場での実務経験3年以上が必要である。試験のみならず、必要な実務経験にも差がある。また、特定技能1号にある介護は、特定技能2号のように定住や家族帯同の要件を得るには、国家資格「介護福祉士」の取得が必要である。特定技能1号は転職が可能であり、長期間働きたいと考える者は分野移動も考えるのではないだろうか。
宿泊業と飲食サービス業の廃業率の高さからみる特定技能生への影響
特定技能1号者はどのような企業に雇用されているのであろうか。人手不足に悩む中小企業が、技能実習制度から特定技能制度へと外国人労働者の活用を移行させていることが推測でき、特定技能外国人労働者の多くが中小企業に雇用されていると考えられる。2022年度の小規模企業白書によると、業種別に開廃業の状況は「宿泊業、飲食サービス業」は最も開業率・廃業率が高いことがわかる。(*3)
飲食業は特定技能1号の対象分野に含まれ、現在登録者の増加率の高い業種である。特定技能2号への移行に際し、実務経験や試験の難易度が比較的低いと推測でき、分野転職の対象になりやすい職種であろう。廃業した企業で雇用された特定技能生のスムーズな転職支援も今後の課題となる可能性があるのではないだろうか。
安定した制度に向けての考察
特定技能2号の試験は始まったばかりで未知数ではあるが、試験については難易度の職種ごとの均一化やより公正な評価基準を設けることも検討が必要ではないだろうか。筆者の調査でも、介護から外食業に転職した者は、特定技能2号に合格するために、2年の実務経験と試験合格が可能なことを知り、転職を決めていた。介護分野の国家資格「介護福祉士」の資格取得よりも、外食業で特定技能2号の試験を受験する方が日本に残ることのできる確率が高いと判断したのである。また、特定技能1号者への教育については企業判断であり、企業間で異なっているのが現状である。特定技能2号合格により、長く日本で働くことを目指す者は、より良い支援を受けることができる企業への転職、難易度の低い分野への変更を希望するのは当然のことである。現在、特定技能2号試験について企業や個人への特別な支援制度はない。雇用する企業からすれば、特定技能2号者は、登録支援機関への支払いも不要となり、支援費の負担も軽くなる。採用・技能習得に投資した企業は、特定技能2号を取得し、長期に働き、さらに発展させて働くことを期待していると考えられる。特定技能2号試験についてはその実施についての実態調査とその調査に基づいたさらなる検討が必要であると考える。
(*1)出入国在留管理庁 特定技能制度
外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/index.html
出入国在留管理庁 特定技能2号の対象分野の追加について(令和5年6月9日閣議決定)
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/03_00067.html
出入国在留管理庁 特定技能の受入れ見込数の再設定及び対象分野等の追加について(令和6年3月29日閣議決定)
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/nyuukokukanri01_00132.html
(*2)出入国在留管理庁 試験関係
https://www.moj.go.jp/isa/applications/ssw/nyuukokukanri01_00135.html
(*3)2022年版 小規模企業白書(HTML版) 第1部 令和3年度(2021年度)の小規模事業者の動向 第1章 中小企業・小規模事業者の動向 第2節 中小企業・小規模事業者の現状 6.開廃業の状況 (第1-1-37図)
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2022/shokibo/b1_1_2.html
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