日本国憲法には、基本的人権の尊重・国民主権・平和主義の三つの基本原理があるとするのは、小学校でも学習する基本的な項目だ。しかし、その背後には、「個人の尊厳」がある。つまり、君主の都合や国全体の利害よりも、法に反しない範囲で、個人の立場を優先するべきであると言っている。君主の都合はもはや成り立たないが、国の都合が個人の都合より優先されることはよく見られることだ。全体主義は、国の都合が個人よりも優先される考えである。
日本では、全体主義がもはや過去のものと考えられているが、それでも、国というより、社会の都合が個人よりも優先することは頻繁に見られる。特に横並び意識が強いこの国では、「なんとなく」個人の欲求が社会の都合によって抑圧されることが見られる。その一つが「高齢者の運転免許自主返納」である。高齢者は身体的、精神的な衰えがあり、運転するのに適さないことは一般的かも知れないが、車を使う都合は個人ごとに異なっている。また、高齢者の身体的不調によって事故割合が少し大きいからと言って、運転に適さないのであれば、障害者はどうなるのか?社会の都合によって障害者は車には乗るべきでないと言わなければならない。さらには、免許返納が一定の条件のもとに行われる(例えば、免許の更新手続きの際に、一定の基準を満たさないことなど)のではなく、基準を満たしているにも関わらず、「運転免許自主返納」を促されるのは、個人の尊厳をもとにした、基本的人権を軽視するものとなる。さらには、基準を設けず「自主的に」行うことを促すやり方は、集団的同調圧力で個人の行動を左右する、陰険なやり方であるとしか言いようがない。
個人の尊厳を重視するのなら、一定の基準をつくらなければならず、その基準の正当性も問わなければならない。例えば、認知機能の少しの低下が基準となるのなら、果たしてそれがどの程度の確率で事故につながるのか、証明される必要がある。また、その基準は、高齢や障害をもつかどうかに関わらず、「すべての人」に対しての免許更新の際に適応しなければならない。
マスメディアの態度も問題だ。高齢者の事故は大きく報道する習慣は是正しなければならないし、中立的な統計を参照する必要もある。地方での過疎化(人口減少)による、交通機関の維持を大きく問題とするなら、公共交通機関を補う役割のある、個人の車移動を制限する免許返納には反対すべきだろう。この様な矛盾を脇において、昔ながらの報道に明け暮れるのは、公正な態度だろうか?
同調圧力の問題で今後の課題となるのは、移民問題である。少子化の進行が甚だしい状態で、人口減少を解決する切り札は、移民の導入であるにも関わらず、人口減少の進行(出生率が1.20になる)に対して、報道各社は移民問題を前面に出さず、少子化対策についての報道のみとなっている。人口減少に対して最も大切な、移民をどのようにするのか? 受け入れるのか拒否するのか? 受け入れる場合にはどの程度の人数にするのか? 日本の習慣と外国人の習慣がぶつかり合う場合にはどのような解決をするのか? などの課題は、個人の尊厳の問題に関わってくる。日本の多くの習慣は、個人の尊重から発しているとは言い難く、個別主義と社会的同調圧力との格差を考える必要がある。現在のように、建前(移民は入れない)と、本音(労働者が足りないので外国人労働者に頼る)との乖離は、原則を脇において、目の前の状態の処理のみに注力しているように見える。
高齢者の運転免許の自主返納が何の抵抗もなく行われている状態を見ると、移民の排斥がいとも簡単に、あるいは、何の議論もなく、ただ習慣的に行われるのではないかとの危惧を持たざるを得ないだろう。その場合、日本は日本文化に同化しない外国人に対する論理なき社会習慣によっての排除と、個人の尊重との間に陥って、混乱することは避けられない。
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