岡山大学病院の3Dマップ作成による患者利便性の向上【橋本財団2023年度研究助成 成果報告】

医療機関を訪れる患者さんにとって、目的の場所へスムーズにたどり着くことは重要な課題です。特に初めての来院時や、複雑な構造の病院では、道に迷ってしまうことも珍しくありません。筆者は日々の診療の中で、そのような患者さんの姿を目の当たりにし、誰もが迷わず目的地にたどり着けるような案内マップの必要性を強く感じていました。従来の岡山大学病院の案内マップは、各部署が独自に作成した平面図が散在し、統一性に欠けていました。情報が分散していたため、患者さんが必要な情報を得るためには、複数のマップを参照しなければならず、非常に不便な状況でした。そこで、最新のデジタル技術を活用し、病院内の案内をより直感的でわかりやすいものにするアイデアを思い付きました。

具体的には、病院の入り口から各診療科、検査室などが連なる動線を、夜間の診療が終了した後に写真と動画で丹念に撮影し、それらを元に3次元の仮想空間マップを作成しました(図1)。

このマップの最大の特徴は、実際の景色と同じ画像で構成されていることです。患者さんは、スマートフォンに表示される画像と、目の前の景色を照らし合わせながら移動することができるため、まるで現実の病院内を歩いているかのような感覚で、目的地に到達することができます。さらに、このマップには自動販売機や車いす対応トイレなどの施設の位置情報も組み込まれており、患者さんはスマートフォンで簡単に検索することができます(図2)。このような機能は、特に初めて来院する患者さんや、身体の不自由な方にとって大きな助けとなります。

また、患者さんへの情報提供を充実させるため、院内の3Dマップ内に仮想の展示スペースを設けました(図3)。これまでは、院内掲示板を直接見に行く必要があり、入院中など移動が難しい方は情報にアクセスしづらい状況でした。さらに、物理的な掲示スペースの制約から、展示内容や規模にも限りがありました。しかし、3Dマップ内に展示スペースを設けたことで、患者さんは自分のスマートフォンを使って、いつでもどこからでも展示を見ることができるようになりました。デジタル化によって展示スペースの制限がなくなったため、伝えたい情報を最適な量と形式で提供できます。

この取り組みは、「院内展示のDX化」の初の事例です。世界肝炎デーや、がん征圧月間の特別展も開催されました。3Dマップには現在地を示すミニマップや、QRコードを使った簡単なアクセス方法も導入されており、患者さんがより直感的に情報を得られるようになっています。そして、病院から患者への情報提供の在り方を大きく変える可能性を秘めています。

2023年5月に、医科領域の外来診療棟、中央診療棟、総合診療棟の1階〜2階部分の3Dマップを患者さんが利用できるように公開しましたが、すでに2500人以上の方に利用されています。利用者からは「これまでの平面マップでは分かりにくかったが、3Dマップなら直感的に目的地がわかる」「スマホで施設の位置を検索できるのが便利」など、高い評価を得ています。

2024年8月には、歯学部棟や中央診療棟の放射線療法室のマップが完成します。歯科診療科や、医科診療科にもかかわらず、歯学部棟に存在している精神科神経科、形成外科、眼科など、これまで場所の問い合わせが多かった部署への案内も、格段にスムーズになり、便利なシステムへと進化を遂げます。今後もマップに掲載する情報を充実させ、患者さんがより快適に病院を利用できるよう尽力していく予定です。これは、全国の医療機関の模範となるような先進的な事例であり、今後、他の医療機関でも同様の試みが広がることが大いに期待されます。

医療現場におけるデジタル技術の活用は、患者さんの利便性向上だけでなく、医療スタッフの業務効率化にも大きく貢献します。岡山大学病院の3Dマップは、その可能性を示した事例であり、今後の医療のDXを考える上で重要な一歩となります。

岡山大学学術研究院医歯薬学域長谷井 嬢
平成19年水島中央病院で初期研修。
平成23年日本学術振興会 若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラムで独国University of Münsterへ臨床留学。
平成26年米国The Scripps Research Instituteへ基礎医学研究留学。
臨床では骨軟部腫瘍を専門として岡山大学病院で勤務し、令和4年より医療情報化診療支援技術開発講座で医療DXに取り組んでいる。
平成19年水島中央病院で初期研修。
平成23年日本学術振興会 若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラムで独国University of Münsterへ臨床留学。
平成26年米国The Scripps Research Instituteへ基礎医学研究留学。
臨床では骨軟部腫瘍を専門として岡山大学病院で勤務し、令和4年より医療情報化診療支援技術開発講座で医療DXに取り組んでいる。
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