日本経済の長期的低迷は、人口減少と日本人のアニマルスピリッツ(*1)の低下につきる。人口減少は生物学的あるいは、文化的な問題であり、容易に解決しないものである。これに対して、近年の日本のアニマルスピリッツの低下は、解決可能にも思えるが、いったいどの程度で、何が原因なのだろうか?企業について考えると、アニマルスピリッツの低下は、保守的な姿勢を表わし、内部留保を手厚くする行動に象徴される。内部留保を手厚くすることは、賃上げと物価の好循環を阻害する。日本企業は、内部留保を増やすために、労働分配率(*2)を引き下げ(賃金を抑制し)、新規投資を減少させた。結果的に、これに人口減少も加わり、バブル崩壊以降の日本の潜在成長率は低下した。
(図1)
(図1)に示す日銀の統計でも、バブル崩壊以降の資本投入量の減少と、労働量の低下は著しい。結果的に、潜在成長率を引き下げる結果となる。投資を抑制し、労働分配率を抑えることによって、企業は内部留保をひたすら積み上げた。この傾向は、アニマルスピリッツの低下によるものだが、内部留保の増加は、さらにアニマルスピリッツを引き下げる結果となったのである。
現在の政権が唱えている、賃金と物価の好循環を目指す政策は、本年度記録的な賃上げを引き起こしたが、未だに日本の賃金水準は低い状態である。この30年間のひたすら保守的な企業運営の結果である。
(図2)
(図2)で示すように、企業内の内部留保の積み上げ傾向は、1996年から2021年までを見ると、大企業は著しく、中堅企業、中小企業においても顕著である。そして、この間の労働分配率は(図3)の通り低下傾向である(70%⇒63%)。多くの企業はバブル崩壊以降、給与を低く抑え、投資を控え、内部留保を手厚くする方針を取っている。この傾向はバブル崩壊の際に、金融機関からの融資を断られたり、貸し剥がしにあったりしたためのトラウマとも言えるだろう。
(図3)
内部留保の上昇と、労働分配率の関係を見ると、この25年間では、反比例の関係にある(図4)。内部留保がひたすら上昇していくことに比べ、労働分配率は低下しているように見える。
(図4)グラフ左は内部留保額(兆円)、右目盛りは労働分配率
さらに、実質賃金と内部留保の関係も労働分配率と同じ様な関係となる。
(図5)グラフ左軸は内部留保(兆円)、右軸は実質賃金、2020年を100とする
(図5)のように、内部留保の上昇と、実質賃金も、反比例の関係である。企業が内部留保を手厚くするために、賃金の抑制を図ったのは、バブル後遺症にその原因があるだろうが、結果的にアニマルスピリッツの低下を助長している。リスクを回避しようとする企業行動が、日本経済の低迷を招いているのだ。
※図2から図5はいずれも厚労省資料から筆者作成
(*1)アニマルスピリッツ:ケインズが1936年の著作『雇用・利子および貨幣の一般理論』で用いた用語で、経済活動にしばしば見られる主観的で非合理的な動機や行動を指す。経済活動はデータに基づく数学的な合理性に則って決定され実行されることが多いが、現実には不確実な状況の中で感情的な期待にも左右されるものであり、そうした不穏で首尾一貫しない心理をケインズは「アニマル・スピリット」と名付け、経済に与える影響を重視した。「血気」「野心的意欲」「動物的な衝動」とも訳される。
(*2)労働分配率:人件費を企業の付加価値で割ったもの。付加価値とは売上から仕入額を引いたもの。
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