2023年度の調査
2023年度は、2021年度、22年度の研究内容を踏まえて、多文化共生の岡山を実現するための課題を明確にするための活動として、1.移民受け入れや多文化共生社会構築の先進国ドイツでの聞き取り調査、2. ワークショップ、3. シンポジウムを開催した。岡山県在住外国人を交えたワークショップでは、岡山での暮らしで直面する課題や、望む社会、その実現のために必要な仕組み、自分にできることは何かなどを話し合った。
1月28日に開催した『多文化共生のまちづくり』のシンポジウムでは、ドイツ調査報告・講演・パネルディスカッションを通じて、受け入れ課題の明確化が図られ、政府・市町村・NGO・市民団体・民間団体が連携し、異文化間のネットワークを構築することの重要性が参加者と共有された。シンポジウムには、在住外国人や市民、100名を超える人々が参加し、多文化共生社会への関心の高さが窺われる集いとなった。
ワークショップから明らかになった課題
行政関係の書類が日本語のみであるという言語の壁や、永住権の取得が容易ではないこと、さらに年金の問題など、安定した生活環境を整えるには、制度的な面でまだまだ多くの課題があることが明らかになった。また、日本人の中にある外国人への苦手意識なども課題として挙げられた。外国人住民も懸命に働いて日本の社会に貢献していることに対する理解や彼らへの敬意をもう少し表現してほしいという要望もあった。
制度を変えていくことは難しいが、心を開いて、互いに感謝し合うことを心掛ければ、例え外国人がゴミの捨て方などを間違えてしまうことがあっても、互いに支え合い、理解しあう方向へと進んでいくだろう。それには、交流の場やイベントの機会を増やしたり、学校や公民館と連携して日本語学習の環境を整えたりするなど、行政の支援レベルを上げていくことが望ましい。外国人、日本人を問わず市民同士のつながりが深まり、さまざまな要望の声が大きくなれば、より良い制度への見直しを後押しすることに繋がるだろう。
「育成就労」について
外国人労働者受け入れについては、多くの失踪者が出るなどの問題が指摘される「技能実習制度」の見直しが有識者会議において議論され、11月24日に最終報告がなされた。そこでは、「技能実習」に代わって「育成就労」という、人材の確保と育成を目的とした新制度の創設が提言された。この案は、6月に参議院本会議で賛成多数で可決された。
この新制度の導入により、失踪の事例がすぐさま解決すると考えるのは困難であろう。なぜなら、失踪者は多額の借金を抱えて来日するベトナム人に多く、例えばPOEA(フィリピン海外雇用庁)によって権利が守られるフィリピン人にはほとんどみられない。つまり、失踪の原因は、転籍ができないという制度より、「多額の借金を負って来日する仕組み」にあると言えるだろう。「育成就労」制度では、借金問題が生じないための仕組みを徹底することが強く求められる。キックバックを要求する悪徳仲介業者を排除する仕組みも必要であろう。また、一年から二年の就労後に転籍できることが技能実習制度とのもう一つの大きな違いとなるが、転籍の仕組みによって、賃金が高い都会に流出してしまうという懸念があり、岡山を選んでもらえるような魅力づくりが必要だ。技能実習制度でも、問題が生じた場合には転籍が認められているが、転籍先がなかなか見つからないなどの課題が指摘されている。新しい制度が就労者と受け入れ企業の両者にとって、安心・安定した職場環境を維持する仕組みとして機能するかどうかも見守る必要があるだろう。
シンポジウム『多様性を尊重した多文化共生のまちづくり』
以下では、シンポジウムで交わされた意見のいくつかを紹介する。大阪・神戸ドイツ連邦共和国総領事館総領事のメラニー・ザクシンガー氏から「多様性があるということが重要であり、きちんと管理すれば力となる。ただし、外国に来て言葉が分からなければ、自国民だけで集まってコミュニティーを作る、つまり並行社会ができてしまう。並行社会ができてしまうと、統合がさらに困難になってしまうので、受け入れ国の言語を学ぶための支援が必要だ」という指摘があった。この発言に見られるように、言語の問題は重要な課題である。日本語はその表記が漢字やひらがな、カタカナなど独自であり、在住外国人にとって大きな壁となっている。ジャーナリストの出井氏も「問題の9割は言語にある。言葉ができれば、統合もできるし、就労先での暴力沙汰も防げる」と指摘した。在住外国人に対する日本語学習の手厚い支援が求められる。「料理、歌、ダンスなど楽しいイベントを通して人日本人との交流の機会が充実するなら、日本語学習の助けとなるだろう」という指摘もあった。
日本人がさらに心を開いて外国人を受け入れるために、「外国人として見知らぬ土地で暮らす経験をすることも重要だ。知らないコミュニティー、文化の中で暮らす経験が必要だ。そうすれば、日本にいる外国人の気持ちがわかるようになるだろう」というザクシンガー氏の指摘に対して、岡山大学准教授の稲森岳央氏も「自分がマイノリティになる経験をすることが重要だ。海外で助けてもらった経験をすると、日本にいる留学生を助けたいという気持ちが自然と湧いてくるだろう」と応じておられた。
双方向の交流という面からは、日本人が自信を持って日本の文化を発信していくことにも力を入れると良いだろう。カナダ大使館参事官のエリック・バーナー氏は「日本にはたくさん貢献できるものがある。日本が提供するサービスは、世界的に見て素晴らしい水準にある。繊細で優れた技術も、安全で高い生活水準もある。自信を持ってそれらを提供して欲しい」と発言し、岡山県在住外国人代表として参加したバングラデシュ出身のモハマッド・アズハ・ウッディン氏も「日本の人々は親切で礼儀正しい」と賛同した。
今後の展望
今回のシンポジウムは、立場が異なる人々が一堂に会し、互いの思いや意見を交換し、非常に有意義な時間となった。グローバル化が進む世界で、孤立し続けることはできない。聴衆の方々から寄せられた様々な質問に対して、建設的な意見が示されるなど、こうしたシンポジウムも多文化共生に向けた一歩となることだろう。
このシンポジウムの成果を岡山に暮らす全市民と共有し、多文化共生社会への意識を高めること、在住外国人との交流の機会を増やすことで、偏見や苦手意識を減らして、多文化共生の岡山の実現に向けた一助としたい。
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