LGBTの若者を孤独から救うメタバース交流システム開発【橋本財団2023年度研究助成 成果報告】

近年、LGBTの当事者が抱える問題に対する社会的な関心が高まっています。中でも、若年層のLGBT当事者の孤独や孤立は深刻な課題です。LGBT当事者の若者は、学校や家庭において“本当の自分を表現する”ことが難しく、常に不安や孤立感を抱えながら生活していることが少なくありません。実際に、認定NPO法人ReBitの調査によれば、「10代のLGBTQの48%が自殺を考え、14%が自殺未遂を経験している」という衝撃的な結果が明らかになっており、対策が求められています。

「NPO法人にじーず」は、これまで全国約10都市で、LGBTの子ども若者を対象とした対面での居場所事業を開催してきました。しかし、地方在住の当事者にとっては、物理的な距離の問題からアクセスが難しいという課題に直面していました。そこで私は、メタバース空間を活用することで、居住地に関係なく、高い匿名性を担保しながら交流会に参加できるのではないかと考え、にじーずへ協力を打診しました。特にアバターを通じて自由に外見を表現できるため、性別違和のある若者にとっては、自分のアイデンティティを表現しやすい環境であることもメリットです。協力について、にじーずからも快諾を受け、取り組みを開始しました。交流会を「バーチャルにじーず」と題し、開催にあたっては、トライアルを行いながら、若者の声に耳を傾け、試行錯誤を重ねました。安全かつ快適な空間設計やファシリテーションの方法を模索し、当事者にとって居心地の良い環境づくりに尽力しました。

その結果、ダーツやオセロなどが楽しめるカジュアルな話しやすい部屋を用意することで、参加者が遊びながら交流できる工夫を施しました。さらに、一目でスタッフとわかるように親しみやすい猫型アバター「にじにゃん」を用いて、参加者の相談や困りごとに寄り添う体制を整えました。威圧感を与えないよう、参加者よりも小さめのアバターを採用するなど、細かい部分まで考えてデザインしました。

安全性のルールについても、参加者全員で共有し、メタバース空間特有の課題に対応したアレンジを行いました。2024年1月からは公式に「バーチャルにじーず」として、月1回で定期開催する所までプロジェクトを進める事ができました。

またリアルでの当事者会の開催時間は、これまで週末の日中が中心でしたが、メタバースである利点を活かして、平日夜に開催することができており、学生には参加しやすい環境となっています。参加者は北海道から沖縄、さらには海外からも申し込みがあり、地理的制約を超えて当事者をサポートできる画期的なサービスであることが証明されました。住まいの近くでは開催されていなかったり、週末では時間の都合がつけられなかったりなど、これまで当事者会に参加したくても、参加できなかった方が多数、「バーチャルにじーず」に参加してくれています。

LGBT当事者では、自分の”声”について、抵抗感がある場合が多くあるため、メタバース空間ではチャットも使用できるようにしています。約1/3の参加者がチャットでの交流を好んで使用しており、声で会話したくない方でも、良好なコミュニケーションをとることができていました。また、メタバース空間では、現実空間と同様に、空間内での物理的距離に応じて音声が小さくなるように設定が可能です。そのため、同じ空間にいながらも、会話内容に応じてサブグループに分けて会話することができます。空間内に設置してあるマグカップが持てたり、花火で遊んだり、ダンスしたりなど、非言語のコミュニケーションがとれることにより、スムーズにアイスブレイクが行われ円滑な交流を行う事が可能です。

参加者からは「自分のありたい姿でいられて嬉しかった」「リアルの友達には言えないことが言えた」などの、メタバースならではのポジティブな感想が寄せられ、孤立防止の取り組みとして大きな手応えを得ることができました。

この取り組みは全国初となるLGBTの若年層に特化したメタバース空間での交流事業であり、社会的意義の高い活動です。若者支援に携わる他の団体にとっても、メタバースを活用した居場所づくりの参考になる点が多いと思われます。メタバース空間なら、匿名性が担保されているため、普段は表現しづらい思いを安心して共有できます。LGBTの若者が直面する困難は、まだまだ社会に十分に認知されているとは言えませんが、にじーずの「バーチャルにじーず」は、そのような若者たちに寄り添い、孤独や孤立から救う画期的な取り組みとなりました。

岡山大学学術研究院医歯薬学域長谷井 嬢
平成19年水島中央病院で初期研修。
平成23年日本学術振興会 若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラムで独国University of Münsterへ臨床留学。
平成26年米国The Scripps Research Instituteへ基礎医学研究留学。
臨床では骨軟部腫瘍を専門として岡山大学病院で勤務し、令和4年より医療情報化診療支援技術開発講座で医療DXに取り組んでいる。
平成19年水島中央病院で初期研修。
平成23年日本学術振興会 若手研究者インターナショナル・トレーニング・プログラムで独国University of Münsterへ臨床留学。
平成26年米国The Scripps Research Instituteへ基礎医学研究留学。
臨床では骨軟部腫瘍を専門として岡山大学病院で勤務し、令和4年より医療情報化診療支援技術開発講座で医療DXに取り組んでいる。
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