近年、LGBTの当事者が抱える問題に対する社会的な関心が高まっています。中でも、若年層のLGBT当事者の孤独や孤立は深刻な課題です。LGBT当事者の若者は、学校や家庭において“本当の自分を表現する”ことが難しく、常に不安や孤立感を抱えながら生活していることが少なくありません。実際に、認定NPO法人ReBitの調査によれば、「10代のLGBTQの48%が自殺を考え、14%が自殺未遂を経験している」という衝撃的な結果が明らかになっており、対策が求められています。
「NPO法人にじーず」は、これまで全国約10都市で、LGBTの子ども若者を対象とした対面での居場所事業を開催してきました。しかし、地方在住の当事者にとっては、物理的な距離の問題からアクセスが難しいという課題に直面していました。そこで私は、メタバース空間を活用することで、居住地に関係なく、高い匿名性を担保しながら交流会に参加できるのではないかと考え、にじーずへ協力を打診しました。特にアバターを通じて自由に外見を表現できるため、性別違和のある若者にとっては、自分のアイデンティティを表現しやすい環境であることもメリットです。協力について、にじーずからも快諾を受け、取り組みを開始しました。交流会を「バーチャルにじーず」と題し、開催にあたっては、トライアルを行いながら、若者の声に耳を傾け、試行錯誤を重ねました。安全かつ快適な空間設計やファシリテーションの方法を模索し、当事者にとって居心地の良い環境づくりに尽力しました。
その結果、ダーツやオセロなどが楽しめるカジュアルな話しやすい部屋を用意することで、参加者が遊びながら交流できる工夫を施しました。さらに、一目でスタッフとわかるように親しみやすい猫型アバター「にじにゃん」を用いて、参加者の相談や困りごとに寄り添う体制を整えました。威圧感を与えないよう、参加者よりも小さめのアバターを採用するなど、細かい部分まで考えてデザインしました。
安全性のルールについても、参加者全員で共有し、メタバース空間特有の課題に対応したアレンジを行いました。2024年1月からは公式に「バーチャルにじーず」として、月1回で定期開催する所までプロジェクトを進める事ができました。
またリアルでの当事者会の開催時間は、これまで週末の日中が中心でしたが、メタバースである利点を活かして、平日夜に開催することができており、学生には参加しやすい環境となっています。参加者は北海道から沖縄、さらには海外からも申し込みがあり、地理的制約を超えて当事者をサポートできる画期的なサービスであることが証明されました。住まいの近くでは開催されていなかったり、週末では時間の都合がつけられなかったりなど、これまで当事者会に参加したくても、参加できなかった方が多数、「バーチャルにじーず」に参加してくれています。
LGBT当事者では、自分の”声”について、抵抗感がある場合が多くあるため、メタバース空間ではチャットも使用できるようにしています。約1/3の参加者がチャットでの交流を好んで使用しており、声で会話したくない方でも、良好なコミュニケーションをとることができていました。また、メタバース空間では、現実空間と同様に、空間内での物理的距離に応じて音声が小さくなるように設定が可能です。そのため、同じ空間にいながらも、会話内容に応じてサブグループに分けて会話することができます。空間内に設置してあるマグカップが持てたり、花火で遊んだり、ダンスしたりなど、非言語のコミュニケーションがとれることにより、スムーズにアイスブレイクが行われ円滑な交流を行う事が可能です。
参加者からは「自分のありたい姿でいられて嬉しかった」「リアルの友達には言えないことが言えた」などの、メタバースならではのポジティブな感想が寄せられ、孤立防止の取り組みとして大きな手応えを得ることができました。
この取り組みは全国初となるLGBTの若年層に特化したメタバース空間での交流事業であり、社会的意義の高い活動です。若者支援に携わる他の団体にとっても、メタバースを活用した居場所づくりの参考になる点が多いと思われます。メタバース空間なら、匿名性が担保されているため、普段は表現しづらい思いを安心して共有できます。LGBTの若者が直面する困難は、まだまだ社会に十分に認知されているとは言えませんが、にじーずの「バーチャルにじーず」は、そのような若者たちに寄り添い、孤独や孤立から救う画期的な取り組みとなりました。
研究助成 成果報告の記事を見る
小林 天音の記事を見る
秋谷 進の記事を見る
坂本 誠の記事を見る
Auroraの記事を見る
竹村 仁量の記事を見る
長谷井 嬢の記事を見る
Karki Shyam Kumar (カルキ シャム クマル)の記事を見る
小林 智子の記事を見る
Opinions編集部の記事を見る
渡口 将生の記事を見る
ゆきの記事を見る
馬場 拓郎の記事を見る
ジョワキンの記事を見る
Andi Holik Ramdani(アンディ ホリック ラムダニ)の記事を見る
Waode Hanifah Istiqomah(ワオデ ハニファー イスティコマー)の記事を見る
芦田 航大の記事を見る
岡﨑 広樹の記事を見る
カーン エムディ マムンの記事を見る
板垣 岳人の記事を見る
蘇 暁辰(Xiaochen Su)の記事を見る
斉藤 善久の記事を見る
阿部プッシェル 薫の記事を見る
黒部 麻子の記事を見る
田尻 潤子の記事を見る
シャイカ・サレム・アル・ダヘリの記事を見る
散木洞人の記事を見る
パク ミンジョンの記事を見る
澤田まりあ、山形萌花、山領珊南の記事を見る
藤田 定司の記事を見る
橘 里香サニヤの記事を見る
坂入 悦子の記事を見る
山下裕司の記事を見る
Niklas Holzapfel ホルツ アッペル ニクラスの記事を見る
Emre・Ekici エムレ・エキジの記事を見る
岡山県国際団体協議会の記事を見る
東條 光彦の記事を見る
田村 和夫の記事を見る
相川 真穂の記事を見る
松村 道郎の記事を見る
加藤 侑子の記事を見る
竹島 潤の記事を見る
五十嵐 直敬の記事を見る
橋本俊明・秋吉湖音の記事を見る
菊池 洋勝の記事を見る
江崎 康弘の記事を見る
秋吉 湖音の記事を見る
足立 伸也の記事を見る
安留 義孝の記事を見る
田村 拓の記事を見る
湯浅 典子の記事を見る
山下 誠矢の記事を見る
池尻 達紀の記事を見る
堂野 博之の記事を見る
金 明中の記事を見る
畑山 博の記事を見る
妹尾 昌俊の記事を見る
中元 啓太郎の記事を見る
井上 登紀子の記事を見る
松田 郁乃の記事を見る
アイシェ・ウルグン・ソゼン Ayse Ilgin Sozenの記事を見る
久川 春菜の記事を見る
森分 志学の記事を見る
三村 喜久雄の記事を見る
黒木 洋一郎の記事を見る
河津 泉の記事を見る
林 直樹の記事を見る
安藤希代子の記事を見る
佐野俊二の記事を見る
江田 加代子の記事を見る
阪井 ひとみ・永松千恵 の記事を見る
上野 千鶴子 の記事を見る
鷲見 学の記事を見る
藤原(旧姓:川上)智貴の記事を見る
正高信男の記事を見る
大坂巌の記事を見る
上田 諭の記事を見る
宮村孝博の記事を見る
松本芳也・淳子夫妻の記事を見る
中山 遼の記事を見る
多田羅竜平の記事を見る
多田伸志の記事を見る
中川和子の記事を見る
小田 陽彦の記事を見る
岩垣博己・堀井城一朗・矢野 平の記事を見る
田中 共子の記事を見る
石田篤史の記事を見る
松山幸弘の記事を見る
舟橋 弘晃の記事を見る
浅野 直の記事を見る
鍵本忠尚の記事を見る
北中淳子の記事を見る
片山英樹の記事を見る
松岡克朗の記事を見る
青木康嘉の記事を見る
岩垣博己・長谷川利路・中島正勝の記事を見る
水野文一郎の記事を見る
石原 達也の記事を見る
野村泰介の記事を見る
神林 龍の記事を見る
橋本 健二の記事を見る
林 伸旨の記事を見る
渡辺嗣郎(わたなべ しろう)の記事を見る
横井 篤文の記事を見る
ドクターXの記事を見る
藤井裕也の記事を見る
桜井 なおみの記事を見る
菅波 茂の記事を見る
五島 朋幸の記事を見る
髙田 浩一の記事を見る
かえる ちからの記事を見る
慎 泰俊の記事を見る
三好 祐也の記事を見る
板野 聡の記事を見る
目黒 道生の記事を見る
足立 誠司の記事を見る
池井戸 高志の記事を見る
池田 出水の記事を見る
松岡 順治の記事を見る
田中 紀章の記事を見る
齋藤 信也の記事を見る
橋本 俊明の記事を見る