岡山における農福連携の取り組み・農福コンソーシアムについて

はじめに

筆者は農業団体のOBです。退職後の第二の人生を含めて40年以上、農産物の販売一筋に過ごしてきました。10年ほど前のある暑い夏の日。桃農家が汗だくになって穴を掘り、桃を捨てているのを目の当たりにしました。訳を尋ねると、「規格外の桃は出荷できない。そのまま廃棄するとイノシシが寄って来る」との事。「あまりにも変な仕組みだ!何とかならないか?」と、規格外の桃を集荷して果汁に加工する取り組みを始めました。いざやってみると、規格外の桃は想定以上に集まってきます。ほとんどがコンテナで持ち込まれ、すぐに返却しないと農家の収穫作業に支障が出ます。毎日・毎日、桃をコンテナから箱に移し替える作業を続ける中で、近くの就労継続支援A型事業所にそのお手伝い(施設外就労)をお願いすることになりました。思えばそれが、私と“福祉”の初めての接点。その後は、2020年にコロナ禍が到来して、「Stay Home」。A型事業所の施設外就労も困難になり、「ならば自分で」と就労継続支援A型事業所を開設するに至りました。『農福連携』というワードに出会ったのも、ちょうどその頃だったと思います。

農業の衰退

随分前、NHKで司馬遼太郎さんの『坂の上の雲』が放映されました。そのオープニング。『スタンド・アローン』が流れて、語りが始まります。

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まことに小さな国が開花期を迎えようとしている。
小さなと言えば、明治初年の日本ほど小さな国はなかったであろう。
産業と言えば農業しかなく・・・
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「産業は言えば農業しかなく」・・・「本当かな?少し言い過ぎでは?」と、明治初期の統計を調べてみると、明治5年の統計が確認できました。日本の農業従事者は1,470 万人。全就業者数の77%は農業者です。

江戸・明治の時代にも、“障害がある方”は存在したでしょうが、統計から考えると 『障害者の多くが“農業”に従事していた』・『農業に縁遠い現代人の多くも、ルーツを辿れば農業従事者』だということです。ところが明治以降、日本の農業就業者は減少を続け、今やその比率は2.0%を割り込んでいます。

高齢化も進んでいます。岡山県においては、基幹的農業従事者の平均年齢は71歳(2020年農業センサス)を超えました。さすがに、「あの不便な田んぼはもう作れん!」・「山際の畑はもう管理できん!」となってきます。直近の傾向値からの単純予測で、“2030年の農業経営体数”は 40万人になるという試算(農水省)があります。もしそうなった時には、『食料自給率(2021年度カロリーベース食料自給率38%)の維持が困難』云々のレベルの問題ではありません。農業の持つ多面的な機能(大雨の時に田んぼが水をため洪水を防止、害獣との棲み分け、景観保持等々)は失われます。田んぼや畑はアチコチで荒れてくる。家の隣は、雑木林になった。あるいは竹藪になった。やぶ蚊は多い。イノシシは、平気で出て来る。そんな所で持続的に住み続けられるでしょうか?子供や孫に「たまには実家に帰って来て! 」と言えるでしょうか?

障害者は増加

農業の労力不足、農業生産力の低下も深刻ですが、一方で、日本の障害者数(障害者手帳を持つ人)は年々増え続けており、これも大きな問題です。ストレス社会と言われる環境要因や「障害」に対しての社会全体の認識の高まり等がその要因だとも言われますが、日本の人口に占める障害者数の比率(約13人に1人)には驚きました。

農福連携は、“農”と“福”双方にとってWin-Winの取組みです。“障害がある方”が、農業の新たな働き手としての活躍できるようになればと切に望んでいます。

農業と福祉との親和性

『自然や植物とのかかわりの中でストレスが軽減する』とか『農業に取り組んでいると、障害者は元気になる』という話を聞くことがあります。ただ、こうした話はエビデンスを示しにくい。このため、筆者の体験や肌感覚で知り得た“農業の特長や福祉との親和性”を少しご紹介します。

●農業は自然が相手
耕して・種をまく(苗を植える)と、やがて芽が出て農作物は成長して行きます。手をかけることで、生き物が育ち、そして収穫するまでを体感できます。11月の寒い日、泥田の中でクワイの掘り取りしたことがあります。両足はつってホトホト疲れ果てましたが、『大人の泥遊び』のようで妙に満足感がありました。特に、大きなクワイが収穫できた時、畦で一服する時には、何とも言えない爽快感があります。

●農業には百の仕事がある
農家が“お百姓”と言われるのは、“百の仕事ができるから”と聞いたことがあります。実際、農業は様々な作業から成り立っており,プロの農家は驚くほどオールマイティーにそれらをこなしていきます。品目にもよりますが、作業を切り分けし、個々の特性に応じて分業化することが農福連携の必要条件だと考えられます。

●農業は孤独な作業
農作業中、農家が話しかける相手は作物です。大声を出しても聞こえないほど、周囲に人はいません。その反動か?リラックスした場でのプロ農家の話しは止まりません。割り込むタイミングをつかむだけでも一苦労が要ります。ただし、現代の“対人関係の悩み”とは対極にある産業です。

●農業には閑散期・繁忙期がある
果樹栽培や米作り等々、ほとんどの品目に閑散期があります。その一方の繁忙期(主に収穫時期)では、猫の手も借りたい状態になります。「一年間の仕事を平準化するため、複数の品目を組み合わせて・・・」と思っても、土地や気象の条件、繁忙期が重なる時期等々からそう簡単ではありません。この課題を単独で解決するのは難しく、やはり“連携”や“協業”で考えるしか手はありません。

農福コンソーシアム岡山

2020年3月、『農福連携を全国に広く展開させ、各地域においても農福連携が定着していくことを目指す』と、全国組織の“農福連携等応援コンソーシアム”が国・地方公共団体、関係団体等様々な関係者を構成員として設立されました。「地方にも農福コンソーシアムの設立をすすめる」との国の方針もあり、また複数の方から「岡山県での設立に力を貸して欲しい」との声もあって、2022年の初秋から農福コンソーシアム岡山の設立準備を始めました。様々な関係先にご訪問し・参加を呼びかける中、“農福連携”を阻む大きな壁も感じました。2023年3月に“農福コンソーシアム岡山”を設立することができ、“農”と“福”両者の相互理解・相互連携の“小さな一歩”を作ることはできました。

※設立趣旨
「農」と「福祉」の相互連携をすすめ、『誰一人取り残さない』持続可能な社会の実現、岡山県農業と関連事業の維持・発展を目指して、農福コンソーシアム岡山(仮称)を設立致したい。

“農福連携”の現状と課題

“農福コンソーシアム岡山”設立後、まずは“農福連携”の『実態』や『阻む壁』の検討を行いました。

(パターン①) 障害者就労施設による農福連携の取組
全国的には「“福”のサイド」の取組は比較進んでいます。

しかし、その多くは家庭菜園レベルに留まっており、販路もバザーが中心で、売上げは安定していません。園芸療法的なねらいの取組みかもしれませんが、『経営』という観点からは“?”マークがつきます。

(パターン②) 農業者(経営体)による農福連携の取組
「“福”サイド」に比べ「“農”のサイド」と取組は、ほとんど進んでいません。

「意識が低い」ということではなく、これまで農業者・農業団体には“福祉”との接点がほとんど無く、「障害者に農業で活躍してもらう」という発想自体がそもそも無かったということです。コンソーシアムに参加したJA晴れの国岡山では、さっそく管内“農福連携”の実態調査が行なわれました。その結果、いくつかの生産現場では出荷箱の箱折、野菜の結束・袋詰め、桃の袋はずし等々、近隣の障害者就労施設との連携が既に行われているという実態を初めて認識し、情報共有されました。

コンソーシアム2年目

設立後1年を経た総会(2年目)では、以下の事業計画(抜粋)を決定しました。

1.農福連携での取組品目(農作物)の選定と生産
(1)選定品目   赤唐辛子・実山椒
(2)選定の理由
   〇 害獣が近づきにくく、農作業も安全に行えること、
   〇 軽量・軽作業で、農業未経験者も取組易い品目であること
   〇 出口(売り先)が明確で、今後増産しても販売に困らない品目であること

2.『農福学連携』による加工食品の開発とその販路開拓
 ※ 原材料
   〇 生産過程で“赤色に着色しない”唐辛子(青唐辛子)
   〇 収穫が間に合わず赤化した干山椒

3. 広報・啓発活動事業
〇 つむぐ(株)ホームページに『農福コンソーシアム岡山』のサイトを新設
  https://tsumugu2011.jp/consortium/
〇 農家と福祉事業所とのマッチングサイト開設の検討

4.JAグループ・農業改良普及員を対象とした研修会の開催

5.第3回農福連携/販路拡大商談会の開催

6.会員・賛助会員の拡充
 ※ 農業に関連する団体・企業(食料品製造業等)等と連携・協働推進

各会員が知恵や思いを持ち寄って、一つ一つ課題解決に取り組めたらと考えています。

おわりに

本格的に農福連携での経営を目指すのであれば、農地制度や水利組合等への知見や積上げた生産農業技術も必要です。ところが、多くの農作物は1年1作。5年間農業をやっても5回の経験値を得たに過ぎません。それを新たに・単独でやろういうのは、相当のリスクが伴います。味方は多いに越したことはありません。ご興味のある方はお気軽にご相談ください。農福コンソーシアム岡山は、『餅は餅屋』の多様なプレーヤーと連携し、プラットホーム機能を発揮できたらと考えています。そして、先人がコツコツ築いた『農業のある風景』を少しでも次の世代に残せたらと願っています。

つむぐ株式会社 代表取締役竹村 仁量
大学卒業後、岡山県経済農協連へ入会。以後30年余、農業団体で農産物の販売一筋で勤務。
2011年にJA全農おかやまを退職(退職時は米穀部長)後、現・つむぐ(株)を起業。
直売店舗2店舗の他、桃・ぶどう等の果実を中心とした卸売業や農業を営む。
岡山山椒の会(2022年1月設立)、農福コンソーシアム岡山(2023年2月設立)の事務局長。
大学卒業後、岡山県経済農協連へ入会。以後30年余、農業団体で農産物の販売一筋で勤務。
2011年にJA全農おかやまを退職(退職時は米穀部長)後、現・つむぐ(株)を起業。
直売店舗2店舗の他、桃・ぶどう等の果実を中心とした卸売業や農業を営む。
岡山山椒の会(2022年1月設立)、農福コンソーシアム岡山(2023年2月設立)の事務局長。
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