イスラム教でのラマダン月には、日の出から日没まで、水や食べ物を一切口にしてはいけない(喫煙、喧嘩なども禁止)。ただし例外はある。旅行中の人や重労働者、重病人や高齢者、妊娠中・生理中・授乳中の女性、乳幼児などは、必ずしも絶飲食を守らなくても良いそうだ。そこで、日本人は次のように考えるだろう。“みんなが飲食を断っているのに、自分だけが飲食をするときは、周囲に隠れて目立たないようにしよう”と。しかし、ムスリム(イスラム教信者)に聞くと、「周囲の人のことは別に気にしない」とのことだ。なぜだろうか?日本人が周囲の人たちから、どう思われるのかを気にするのは、「恥」の感情を持つからだ。「恥」感情は、周囲や世間から自分がどのように思われているかに敏感である。対して、ムスリムが周囲の視線を気にしないのは、ラマダンが、「神」との関係で捉えられているからだろう。もしも、ラマダンの間に水や食べ物を口にすると、それは「神」との約束を破ったことになり、「罪」の意識が生じるのである。
この「罪」と「恥」の感情は、人間というホモ・サピエンスの進化にとっても興味深い。獲物を狩る時も、外敵から身を守る時も、単独行動より集団行動の方が有利だ。人間(ホモ・サピエンス)が、同じ様な類人猿であるチンパンジーやゴリラを凌いで、地球上に君臨することが出来たのは、集団生活がうまく出来たからだと言われる。メンタライジング(心の理論)によると、集団生活で大切なことは、他人の心を推察することだ。自分がやろうとすることを、他者がどのように思っているかを考えられること、これがメンタライジングである。人類は他の類人猿よりも、メンタライジングの能力が勝っているために、集団生活をうまく行うことが出来たので、飛躍的に繁栄したのである。つまり、人類の特徴は、他人を気にして、常に配慮する傾向を持つものなのだ。これが「恥」文化の始まりだ。これに対して、「罪」意識は、自分の内面に向かっている。これは人類本来の傾向に反するものだ。しかし、「罪」意識は、人間社会が集団でしか生きていけない状態から、必ずしも集団を必要としない状態となった現代にマッチする。血縁関係を超えた大きな集団をまとめるためには、メンタライジングを超えた「普遍的倫理観」が必要となり、これに反する行動が「罪」感情である。
普遍的価値としての「神」を生んだ世界宗教である、キリスト教、イスラム教などは、人類の動物としての本来的性格から、内面的な「神」を中心とする世界観を生み出したのだ。血縁的な関係から、普遍的倫理観に基づく相互関係である。これが、「恥」文化から「罪」文化への移行を生んだに違いない。現代では、普遍性を持つ「神」の存在と、それに連なる「法」意識が強い西欧諸国は「罪」の意識が強い。これに対して、人類本来の性質を持つ西欧以外の地域では、「恥」文化が強く残っている。このような分類から考えると、現在の日本の状態がよく理解できる。
「罪」感情と「恥」感情のどちらが強いのかは、国によって大きく異なる。日本の現状を見ると、人間関係を重視し、法よりも親族の感情優先、集団への同調圧力が強いこと、慣習を重んじること、分析的な考えや意見を持たないことなどが根強いことが特徴である。現代を代表する「謝罪会見」でも、よく使われる言葉が「世間をお騒がせした」である。これが謝罪の理由となっている。世間に対しての謝罪の形態を取っているが、実際に世間に対する「罪」は少なく、むしろ世間に対する「恥」を謝罪しているように思われる。また最近では、「〇〇をさせて頂く」という表現をよく聞く。この場合、「〇〇」の許可を求めるのは、特定の人に対してではなく、世間一般に対して許可を得る感覚から来るのだろう。これはまさしく、世間という漠然としたものを意識する「恥」の文化そのものだ。
このような文化は、同時に「本音と建前の違い」をもたらす。もちろん本音は人類が本来的に持っている文化であり、西欧が広めた文化ではない。しかし、政治経済的事情から、人類本来の感情とは別の西欧的個人主義が普及した結果、「本音と建前」の分離が引き起こされているのだ。
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