現在、介護老人保健施設でケアマネジャーをしている渡口将生です。
これまで、
●20歳で介護福祉士を取得
●施設の介護士として約10年
●訪問介護の管理者
●資格取得スクール講師
●小規模施設の管理者
●施設相談員
●施設ケアマネジャー
さまざまなポジションに就き、経験してきた内容から、職員の教育やセミナー講師をしています。また、ライターとして活動しており、主に介護・医療メディアの執筆を行っています。
福祉用具の普及は、介護の現場を大きく変えつつあります。車いすや介護ベッドなどの進化は、介護が必要な方の生活の質を向上させるだけでなく、介助者の身体的な負担軽減が期待できるでしょう。立ち上がりに合わせて自動的にブレーキがかかる車いすや動きに合わせてナースコールが鳴るセンサーベッド・カメラなど、用途や機能はさまざまです。
しかし、便利な福祉用具が開発される一方で、「福祉用具の活用が介護職のスキルを低下させるのではないか」という懸念が浮かび上がります。今回は、福祉用具の普及が介護職のスキルにどのような影響を与え、どう対応していくべきかについて考察します。技術の進歩がもたらす利便性と、人間のスキルに及ぼす影響のバランスを考えることは、今後の介護業界にとっても重要な課題と言えるでしょう。
福祉用具の進化と普及のポイント
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私が介護の仕事に就いたのは2005年の頃です。その頃は、センサーベッドというものは普及しておらず、私自身センサーの存在すら知らずに働いていました。センサーが使用できないため、転倒リスクの高い高齢者をどのように守れば良いのかに悩むことも多かったです。転倒を防ぐためには、「立ち上がりやすい環境」や「履きやすい靴」「ブレーキのかかり具合を空気圧で調整する」など、さまざまな工夫をしてきました。
5年ほど経過した頃、施設に2台のセンサーマットが導入されました。私としては初めてのセンサーです。当時のものは感度が悪く誤作動も多かったですが、利用者の動き出しがわかるため、非常に感動したのを覚えています。しかし、2台しかないため、「導入⇒検討⇒評価⇒改善」とPDCAを回していかなければ、50名の利用者を守れなかったのです。
その後数年でセンサーベッドが普及し、私が働いている施設では100名に対して22台のセンサーが導入されています。PDCAを回さなくてもセンサーが足りない状況が少ないため、「導入⇒検討⇒評価」の部分が疎かになっていると感じています。
福祉用具の種類と役割
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福祉用具にはさまざまな種類があり、介護現場で重要な役割を担っています。まずは、一般的に使用されることの多い福祉用具の例と役割を見ていきましょう。
車いす
歩行が困難な方が自由に動くために使用する福祉用具です。自分で移動できない方には介助者が操作することで、楽に移動できるためお互いの身体的負担を軽減できます。
自動でブレーキがかかる機能やベッドから持ち上げなくても移乗できる機能、ベッドに寝た状態から独立して車いすに変形するものなど、さまざまなタイプがあります。
介護ベッド
高さ調節や角度を付けられる機能が備わったベッドです。モーターを内蔵しているものが一般的で、リモコンで容易に操作できます。近年では、ベッドの内部にセンサーが仕込まれているため、見た目では判断できません。センサー内蔵により、要介護者が起き上がりなどの体動があった際にナースコールが連動し、介助者に通知できる仕組みになっています。また、自動で体の向きを変えることができるベッドマットを利用すれば、介助時に必要な身体的・精神的な負担の軽減が期待できます。
見守りカメラ
遠隔地から安全を確認するために使用される用具です。日常的な安全の確認やサーモグラフィを使用した体温の変化なども読み取れます。また、接続されたパソコンで一括管理し、呼吸数から睡眠状況を確認したり、熱やその他の異常を調べたりできます。高機能なモデルでは、録画や動き出しに合わせてアラートを鳴らす機能や、双方で音声通話ができるものもあり、介護施設などで活用が進んでいます。
福祉用具を利用するメリット
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福祉用具の利用は、介護現場において多くのメリットがあります。ここでは、主なメリットについて見ていきましょう。
身体的負担の軽減
福祉用具は、要介護者を移動させる際の身体的な負担を大きく軽減します。例えば、移動リフトを使用すると、介助者が要介護者を持ち上げたり支えたりする必要が減少し、腰痛などの職業病ともいえるリスクを下げることが可能です。
介護品質の向上
適切な福祉用具を用いることで、要介護者の安全性や快適性の向上が期待できるでしょう。例えば、細かく調整可能な介護ベッドは、要介護者にとって安楽な睡眠姿勢や食事姿勢を維持できます。適正な体位を保つことで体圧が分散されるため、褥瘡(床ずれ)の予防にもつながります。
要介護者の自立支援
福祉用具は、要介護者が可能な限り自立した生活を送るための大きなサポートとなります。車いすや歩行器などを使用することで、要介護者は自分の力で移動でき、活動範囲が広がるでしょう。自立した力は精神的な満足感が得られ、生活の質の向上につながります。
福祉用具の普及がもたらす懸念点
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福祉用具の普及は介護現場に多くのメリットをもたらす一方で、いくつかの懸念点があります。特に、介護職員のスキル低下に関する問題は、深刻な影響を及ぼす可能性があるため、注意しておかなくてはなりません。特に注意が必要な点は以下の通りです。
介護スキルの使用機会減少
福祉用具の活用により、要介護者の移動や日常生活のサポートが容易になるため、介護職員が手技による介護をする機会が減少します。そのため、手技に関するスキルが低下する恐れがあるのです。例えば、体位変換や移乗(ベッドから車いすへの移動など)の技術は、適切な方法で行わないと要介護者に不快感や痛みを与える可能性があります。突発的な理由から福祉用具が使えない場面も想定されるため、介助者は最低限の知識やスキルが求められます。
技術と人間性を兼ね備えた介護の実践
福祉用具を適切に活用する技術とともに、要介護者への思いやりやコミュニケーション能力を大切にすることが重要です。介護職員は技術的な介護だけでなく、要介護者の心理的なサポートやケアを提供する必要があります。人間らしい接触や会話を大切にし、要介護者の自尊心や自立心を支えることが求められます。
福祉用具の適切な活用方法と介助者の役割を見直す
福祉用具の導入は、介助者にとっても要介護者にとってもメリットが大きいものですが、その活用方法には慎重な判断が必要です。福祉用具の過度な依存を避け、要介護者ができるだけ自立した生活を送れるよう、介助者がサポート役を果たさなければなりません。また、福祉用具の選定や設置に際しては、介助者の知識や経験も重要な判断材料となります。
まとめ
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福祉用具の適切な活用は、介護現場において多くのメリットをもたらしますが、それに伴う懸念点、特に介護職のスキル低下に対しては適切な対策が求められます。定期的なスキルアップトレーニング・技術と人間性を兼ね備えた介護の実践・福祉用具の適切な活用方法の見直しが、この課題を克服する鍵となります。介護業界の将来性を考察すると、持続的で高品質な介護サービスの提供は必要不可欠です。そのうえで、急速に発展していく福祉用具を適切に選定し、使用する場面を判断できる介護職員の育成が求められます。介護の現場では、『急に人を動かさないといけない場面』があります。近くに人がいない、福祉用具がない状況もあるでしょう。そんなときに、自分の身体ひとつで介助できるかどうかは大きな分岐点になると考えています。
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