来年の大阪・関西万博にイスラエルが参加する意向を正式に表明したようだ。これについて日本政府は「参加するかどうかは各国が自ら決定することであるが、『命の大切さ』などをテーマにした今回の万博の趣旨に照らせば、ウクライナに侵攻したロシアの参加はそぐわない。しかし、ガザ地区におけるイスラエルの軍事行動は、ハマスによる奇襲攻撃を発端とするものであり、両国を同じように扱うべきではない」との認識を示した。日本政府が説明したように、ウクライナ侵攻においてロシアは明らかな加害者であり、ハマスによる攻撃を受け軍事行動に出たイスラエルを同等に扱うことはできないだろう。しかし、この発言はその後のイスラエル情勢を全く認識していないかのように映る。
2023年10月7日、ガザ地区を実行支配するイスラム主義組織ハマスなどがイスラエル領内へ奇襲攻撃を仕掛けて以降、イスラエル軍はガザ地区への空爆や侵攻を強化し、パレスチナ側の犠牲者は3万人を超えている。ガザ地区の人口が200万人とも言われるなか、この半年間で約70人に1人が犠牲になるという驚異的な数字だ。その多くは罪のない女性や子供であるが、イスラエルはハマス殲滅のためにはパレスチナ人の命は関係ないと感じているようだ。
イスラエルは自衛の権利を主張しているが、これまでの攻撃は明らかに自衛の範囲を超えるもので、権利を乱用しているに過ぎない。今回の悲劇の発端はハマス側にあるが、両者の軍事力の差は歴然としており、南北50キロ、東西5キロから8キロという狭いガザ地区に空爆や地上侵攻を行えば、市民の犠牲が回避できないことは誰の目にも明らかだ。
また、イスラエルはイランへの攻撃も強化している。4月1日、イスラエルは隣国のシリアに向けて複数のミサイルを発射し、シリアの首都ダマスカスにあるイラン大使館領事部の建物に着弾し、イラン革命防衛隊の司令官や軍事顧問など10人以上が死亡した。イスラエルはハマスを支援するイランを長年敵視してきたが、外国の大使館という外交施設を攻撃したことは明らかな国際法違反であり、中東の緊張をさらに深める不安定要因でしかない。
当然のことだが、これまでのイスラエルの行動には、国際社会全体から批判の声があがっており、イスラエル支持に撤する米国も諸外国から反米感情が広がることを警戒し、イスラエルへの苛立ちを募らせている。アラブ諸国などでは「イスラエル製品を買うな」「イスラエルからの輸入を停止しろ」などというボイコット運動も広がっており、トルコは最近、イスラエルが停戦に応じるまでの間、鉄鋼材やジェット燃料など54品目のイスラエル向けの輸出を制限すると発表した。
こういった状況で、日本は何もなくイスラエルの万博参加を受け入れて良いものだろうか。伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションは2024年2月、イスラエルの軍事産業大手「エルビット・システムズ」と結んでいた協力関係を同月末で終了すると発表した。これはイスラエル企業と関係を維持することで自社の評判やブランドが落ちることへの警戒感もあろうが、人道・人権の視点から見れば極めて賢明な判断と言えよう。日本企業がそういった決定を下した一方、国民の生命と財産、もっと言えば人間の普遍的な命や人権を重視しなければならない国家や政府がこれでいいのだろうか。日本は戦闘停止をイスラエルに強く要求し、そうでなければ「万博は受け入れない」と強い姿勢で臨む必要があろう。
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