パレスチナ戦争について

イスラエルによる「パレスチナ自治区・ガザ地区」への攻撃が激しく、女性や子供を含む数万人が命を落としたと報道されている。悲惨なことだ。我々には、中東の情報は乏しく、せいぜい、5度にわたる中東戦争と、1993年のイスラエルとパレスチナの間に結ばれた、歴史的な「オスロ合意」を知っている程度である。まして、今回のイスラエルーパレスチナ戦争がどのような意味を持ち、どのように考えればよいのかを知るすべが乏しかった。イスラエルの建国以降、5度の中東戦争が行われ、なぜオスロ合意が守られないのか、どうすればパレスチナ地域の平和が訪れるのかについて、判断する材料が不足している。

『パレスチナ戦争』の著者、ラシード・ハーリディー(※1)は、パレスチナ戦争の本質を、「21世紀にはあり得ない、イスラエルによる19世紀型の、パレスチナ植民地支配による戦争」であると位置づける。もちろんラシード・ハーリディーは、パレスチナ人であり、パレスチナ側に立った視点から述べている。紀元前1000年頃、ヘブライ人(ユダヤ人)は、パレスチナの地に王国をつくり繁栄した。その後、紆余曲折を経て、紀元前に、ローマの支配により、ユダヤ人は離散して(ディアスポラ)世界各地に散らばった。しかし、第一次世界大戦中、1917年にイギリスの外相バルフォアは、ユダヤ人に対して、将来パレスチナの地に国家を建設出来る可能性を示した(バルフォア宣言)。以下は、その書簡である。バルフォアからロスチャイルド(ユダヤ人)に宛てたものだ。

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親愛なるロスチャイルド卿

私は、英国政府に代わり、以下のユダヤ人のシオニスト運動に共感する宣言が内閣に提案され、そして承認されたことを、喜びをもって貴殿に伝えます。
「英国政府は、ユダヤ人がパレスチナの地に国民的郷土を樹立することにつき好意をもって見ることとし、その目的の達成のために最大限の努力を払うものとする。ただし、これは、パレスチナに在住する「非ユダヤ人」の市民権、宗教的権利、及び他の諸国に住むユダヤ人が享受している諸権利と政治的地位を、害するものではないことが明白に了解されるものとする。」
貴殿によって、この宣言をシオニスト連盟にお伝えいただければ、有り難く思います。
敬具
アーサー・ジェームズ・バルフォア

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一方で、イギリスはアラブ人に対しも約束を行っていた。1915年10月に、イギリスの高等弁務官ヘンリー・マクマホンが、アラブ人の領袖であるメッカ太守フサイン・イブン・アリーと結んだフサイン=マクマホン協定で、イギリス政府は、オスマン帝国との戦争(第一次世界大戦)に協力することを条件に、オスマン帝国の配下にあったアラブ人の独立を承認すると表明していた。

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前略・・・・提案の境界線(※2サイクス・ピコ協定による)の内側にある地域については、イギリスがその同盟国フランスの権益に損害を与えることなく自由に振舞える地域であり、私は貴殿に対しイギリス政府の名において次の通り誓約を行い、貴殿の書簡に対し次の通り返答する権限を与えられている:上記で述べた修正を条件に、イギリスはメッカの太守が提案した境界線の内側(イギリスが統治する地域)にあるすべての地域におけるアラブ人の独立を承認し支持する用意がある。

                                                ()内は著者による
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このようなイギリスの「二枚舌外交」が、問題を複雑化させていることは確かであるが、ラシード・ハーリディーは、それ以上に問題の根本が、イスラエルの19世紀型の「植民地的統治」にあると見ている。アメリカ合衆国のネイティブアメリカンとの戦闘、オーストラリアでのアボリジニ排除、あるいは南米のスペインやポルトガルによる植民地支配。これらと同じように、ユダヤ人によるパレスチナの植民地支配と位置づけられると言うのである。イスラエルの植民地支配によって、それまで在住していた、パレスチナ人は数十万人が難民となり、レバノン、シリア、ヨルダンなどに移住した。しかし、国際社会での交渉は、常にイスラエルとアラブ諸国の間で行われ、パレスチナ人の関与が乏しかった。オスロ合意は、パレスチナ人の居住権は認めたが、国家建設に至る道筋は示されていないことを述べている。

問題の解決は非常に難しいが、まずイスラエルがパレスチナの植民地的支配をやめること。そして、現在のヨルダン川西岸地区を支配しているファタハと、ガザ地区を支配しているハマス双方ともに、戦略を間違えているのであり、取るべき戦略は、従来の権威的な国家間ではなく、アラブの民衆に向けて、さらにはイスラエルの人民に向け、世界のマスメディアを使って世論喚起を重視すべきであることを強調する。

※1 ラシード・ハーリディー:コロンビア大学エドワード・サイード現代アラブ研究教授。パレスチナの名門の生まれで、イスラエル対パレスチナの和平交渉などに関わってきた。

※2 サイクス・ピコ協定:イギリスの中東専門家マーク・サイクス とフランスの外交官フランソワ・ジョルジュ=ピコによってつくられた案。シリアより北をフランス、南をイギリスが統治するという案(パレスチナの一部は特別国際管理地域)。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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