トマ・ピケティは、『21世紀の資本』の中で、富裕税あるいは資産課税の導入を提唱した。その根拠は、「r>g」の現実だ。「r」は資本収益率を示し、「g」は経済成長率を示す。同書では、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、「r」資本収益率の増加が年に5%程度であるにもかかわらず、「g」経済成長率の増加は1~2%程度しかなかったと指摘する。そのため、「r>g」という不等式が成り立つ。この不等式が意味することは、資産 (資本) によって得られる富、つまり資産運用により得られる富は、労働によって得られる富よりも増え方が著しいということだ(その為に金融業が潤う)。言い換えれば「裕福な人 (資産を持っている人) は、より裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」というわけだ。
そこで、富裕税あるいは資産税を課す発想が生まれる。現在、資産課税が行われていないわけではない。日本では、固定資産税と相続税がこれらに相当する。固定資産税(税率 資産価格の1.4%)は税制の中に根付き、税収は総額で10兆円足らずに達しており、地方税の大きな柱となっている。相続税も最高税率は55%で、諸外国に対して低いわけではない。しかし、財務省のPRを待つまでもなく、そもそも高齢化社会である日本の税収は大幅に不足している。そのために、負債は1200兆円を優に超え、凄まじい勢いで年々増加している。
財務省資料
2022年度では、税収71兆円に対して、当初予算110兆円、補正を加えると140兆円が必要で、激しい税収不足(40兆円から70兆円の不足)だ。かつては、消費税を欧米並みの20%にすることによって、税収不足は賄えると考えられていたが、今では、消費税の逆進性が強調され、消費税の引き上げには大きな抵抗がある。
一方で、法人税の引き上げや、所得税の累進税率引き上げの余地はあるが、一般の反発と見合うだけの税収は期待出来そうもない。そこで、富裕税あるいは資産課税なのである。考え方は、不動産に対する固定資産税と同じである。このような金融資産課税は世界で見ると少なく、富裕税を実施している国はスイス、オランダ、ノルウェー等にすぎない。日本では、1950年(昭和25年)に所得税の最高税率が55%に抑えられ、同時に0.5〜3%の累進税率で富裕税が導入された。しかし、富裕税は3年で廃止され、代わりに所得税の最高税率が65%にされた経緯もある。
財務省資料
しかし、マイナンバーの普及は、資産課税に道を開く。資産の把握は、資産課税に反対の人にとっては都合が悪いが、現在は不完全にしか行われていない。預金口座のマイナンバーに対する紐付けが出来れば、金融資産の把握がほぼ可能となる。資産額は申告とし、資産課税は、多少の累進率(0.5%から2%程度)を加味して、例えば1000万以下の金融資産には非課税、それ以上には、0.5%の課税、そして、10億以上の資産に2%程度の課税が考えられる。それでも、理論的には日本人の金融資産2000兆円の1%に課税することが出来れば、20兆円の税収となる。その上で、不足する税収を消費税で賄うべきだろう。消費税の逆進性(低所得者のほうが、相対的に税負担が重くなる)を補うためには、まず、富裕層に対する金融資産課税を行った後に、国民の理解を得て、消費税率の問題を議論すべきである。
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