ナショナリズムからトランスネーションへ

1971年「Imagine」ジョン・レノン

「想像してごらん 国なんて無いんだと」ジョン・レノンは、このように歌っている。国境がないなんて、信じられないと思っているだろうが、歴史的に見ると国境なんていい加減なものだ。民族は国境を超えて広がっているのが現実である。トランスネーション(トランスナショナリズム)は、国境にとらわれない、国家を超えた関係を目指している。これは、夢物語ではない。

NHK「街道をゆく(司馬遼太郎原作)」のなかで、15代沈壽官(ちんじゅかん)の話が登場する。沈壽官とは、豊臣秀吉の朝鮮出兵の際に、日本に連れてこられ、以降400年にわたって、薩摩焼の家元として生きてきた家系である。15代当主の沈壽官が「街道をゆく」第65回のなかで、興味深い話をする。

『私は30才代で修行のため、韓国の芸術大学の大学院を受けたときのこと、面接の際に教官に言われたことに傷つき、受験を取りやめてしまった。教官は、次のように言った。「この学校で学ぶ2年の間に、400年間の日本の垢を全て洗い流して、韓国の魂をお腹に入れてください」と。私は反論した。自分たちは薩摩で一生懸命頑張ってきたつもりだ。良い仕事をすれば、殿様から褒美を与えられた。それが日本の垢だという言い方はないんじゃないですかと。
そのいきさつを司馬先生に手紙で書いたのです。そうすると、司馬先生から心のこもった返信がありました。それには、「今、日本人に必要なのはトランスネーションということです。韓国・中国人の心がわかると同時に、強く日本人であると言うことです。あなたの父君(14代沈壽官)はトランスネーションの人です。ですが、私も年少の頃からそう心がけて、自分を1個の人類に仕上げたつもりです。あなたの父が愛国者であると同じように私もそうです。真の愛国はトランスネーションの中に生まれます。」』

人口の大幅な減少が確実な日本において、真の愛国心はトランスネーション(トランスナショナリズム)の考えから生まれる。決して偏狭なナショナリズムからではない。トランスネーションの考え方は、ともすれば多国籍企業の戦略に使われ、あるいは、先進国が発展途上国に対して、自国の損得を優先した自由貿易の理由づけに使われる。しかし、真のトランスネーションの考えは、ジョン・レノンや、司馬遼太郎が述べるように、他国の民を尊敬し、同時に自国の民をも尊重する考えである。スポーツで自国の選手を熱狂的に応援することがまずいことであるとは言えないが、他国の選手に対しても同じように、良いプレーに対して拍手を送るべきだろう。ナショナリズムは、せいぜい、同じ県民を応援する程度とすべきである。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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