潜入レポ!介護の現場から 第15話「看取り‐前編‐」

パートで働き始めて4か月目。介護サービスの現状を探るべく、夜勤をしたり勉強会にも参加したりしている。
山田様の頻回コールを通して様々なことを学んだが、単純に介護のレベルが低いと言うものではなかった。夜勤の過酷さ、認知症への理解の難しさなどを考えると、介護の現場だけが責められるものではない。
いつのまにかしてしまっている差別などは、認知症に対するものだけではなく、年齢・人種・男女差別といろいろ有る中でも同じことが言えるのではないか。

そんなことを考えている中、4回目の夜勤で、がん末期の入居者様と関わった。


108号室の下川様。脳梗塞のため右半身麻痺があり、一人での生活を家族が不安に思われて、入居された。麻痺は軽度であるため、入居当初は自分でトイレにも行けていたし、食事や着替えも自立していた。入浴だけは、お風呂場は滑ったり転んだりしそうで怖いということで、見守りをしていた。

入居して1年後に末期の肝臓がんが見つかった。今年の7月初めとのこと。現在約2か月が経っている。とても体がだるそうで動作の一つ一つがゆっくりである。それでも着替えや食事をご自分でやりたいようだ。どこまでお手伝いをするのかが難しい。
そしてトイレに行くのはふらつきがあるので見守っていないと危険だ。「トイレだけは自分で行きたい」とおっしゃり、手が出せる雰囲気ではない。付き添いをしようとしても「大丈夫だからあっちに行って」と拒否される。

夜勤終わりの申し送り時に、危険で見守りが必要なのに拒否されると話したら、渡辺施設長が「下川様は、病気のことをご存知ないからややこしいわね」と。
ご存知ないって?!医師はどのように説明しているのか?申し送り後に増野リーダーに訊ねてみた。すると、「ご家族の反対で告知ができていないの。もう助からないのならそっとしておいて欲しい。80歳を超えている母はショックで受け止めきれないと言われているの。家族に反対されると医師も尻込みするからね」

本人にとっての一大事なのに本人に知らされない。このまま何も知らないままで亡くなってしまうのか!自分のことを知る権利があると思うし、たとえ最初はショックを受けても立ち直っていけるような気がする。もちろんご家族はじめ医師など周囲のサポートは必須なのだと思うが。これも1つの差別だろうか?40歳の働き盛りの男性が同じ状態であっても告知しないのか。ショックを受けるのはみんな同じはず。下川様にとって残された時間が少ないことを考えると焦ってしまう。

夜勤で疲れていたがじっとしていられず、増野リーダーにさらに聞いてみた。
このまま告知しないのか。医師や家族は告知の義務があり、本人は知る権利があるのではないか、と。


増野リーダーは「池田さんにはいつも考えさせられるわ。告知しない例は今までにも何度も有ったので、そんなものと思い込んでいたわ。本人がショックで受け止められない、なんて言われるとやっぱり怖い気もするしね。でも私だったら聞きたいと思う・・・」

増野リーダーの発案で医師・家族・介護者で話し合いを持つことになった。

 

 

 

「潜入レポ!介護の現場から」全体像
*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や、時には受診の付き添いなどでの病院の様子など、レポートは多岐にわたる。

 *登場人物
介護の現場体験者:池田出水
 介護施設にパート(月曜~金曜の11時~15時)として入社。頻回コールで職員の中では問題になっている山田様の部屋を仕事終わりに尋ねて話をするようになる。コールは物忘れをする不安が一因にあると分かり対策を打ち出す。また、夜間職員にベッドを蹴られるという事実も判明した。山田様との話の中で身体拘束を疑い、夜間の様子を何としても知りたくなり、入社2ヶ月が近づく頃に夜勤(月に2回)をすることに決めた。身体拘束は山田様が以前居た施設でのことと分かり、山田様は過去のトラウマに悩まされ、そのことが頻回コールの一因でもあったことが分かった。
入社2ヶ月を過ぎ、山田様との会話の中から認知症に対する差別があるのではと感じ、認知症の勉強に意欲も燃やす。

施設責任者(施設長):渡辺
 日々、忙しそうで相談事ができる様子はない。

パートの先輩:大村
 目の前の仕事をこなすことで精いっぱい。面倒なことには巻き込まれたくない??

常勤ヘルパー(リーダー):若林
 ぶっきらぼうで怒りっぽい。しかし自分の間違いは素直に認め、向上心も持っている

共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野
 池田出水の行動をよく見ており、いつも冷静で公平な判断をしていて正義感が強い。

虐待疑惑職員:吉田

202号室入居者:山田
頻回にコールを押され職員間では問題となっている。

202号室入居者家族:娘

203号室入居者
308号室入居者:朝山
106号室入居者:岩井
108号室入居者:下川
常勤職員
往診医

 

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
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