がん検診は有用である。早く見つけて早く治しましょう。これって真実なのでしょうか。
ちょっと考えてみましょう。最初にお断りしますが、決してあの『近藤何某かの理論』ではありません。そこのところは理解してください
今回話題にする甲状腺がんでは、その予後は良好であり死亡数は決して多くはありません。ちなみに100万人あたり乳がんは約100人の方が毎年死亡されますが、甲状腺がんでは10人以下です。従って早期発見の必要性は乳がんや肺がん、胃がんに比べて低いと言えるでしょう。しかし5mmを越えれば積極的に治療すべきという意見もあります。5mmの結節は基本的には無自覚で画像のみで検出された症例です。果たしてそれは妥当でしょうか。
日本ではある医師が今から四半世紀以上前に超音波を用いた甲状腺がん検診を行いました。検診の成績は1.8%の要精検率0.9%の発見率であり、陽性反応適中度は50%でした。2人を精査に回しそのうち1人ががんであった、このようなとても効率のいい検診成績を達成できたのであります。甲状腺がん超音波検診はがん検診としては究極の方法であり、それは一面では理想的ながん検診といえます。しかしここでがん検診の目的をしっかり認識する必要があります。各臓器のがん検診の目的はそのがんを検診で早期に発見し,死亡率を滅少させることであり、ただ単にがんを早く発見することではないのです。ここ重要です!
検診開始当初から適応は徐々に制限し、最初は腫瘍径3mm以上を全て穿刺するようにしていましたが、最終的には10mm以上の病変に限って精査の適応とするに至りました。検診開始当初からあまりに多くのがんを見つけることに疑問を感じたからです。7mm程度の乳頭がんは画像でほぼ診断を下すことは可能です。そのような病変を見つけても何もせず, 本人も告げることもしない。換言すれば積極的に甲状腺がんを見逃しています。この成績から算出したがん発見率は3mm以上3.53%、10mm以上0.88%、15mm以上0.28%、20mm以上0.14%でした。3mm以上の甲状腺がんは成人女性100名中3人が罹患していると言うことになります。3mmの甲状腺がんが健康女性100名中に3人以上いるということ!この数値は実際に日本で手術をされた患者さんの数から算出した罹患率に比べて700倍多い罹患率になります。700倍とは驚いてしまいます。
手術例の検討では、小さいうちからリンパ節転移が認められました。このことから5mm以上の甲状腺がんは進行がんに準じた治療をするべきとの考えが導かれるのも無理はないです。しかし高い発見率とリンパ節転移率から推定患者数を算出するに、その数も膨大になり、それは現在の日本における甲状腺がん罹患数、死亡数とかけ離れた値です。逆に甲状腺がんはリンパ節転移を伴ったまま潜在的に人体に存在すると考える方が合理的です。
そこで私の提案する甲状腺内の小型結節に対する考えは以下の通りです。①検診という名目で超音波を用いて甲状腺を検索することは絶対にしてはいけない ②CT、MRI,PETなどの他の検査で偶発的に見つかってきた甲状腺内の結節が、悪性を疑う場合、15mm以下に関しては本人にその旨伝え、原則経過観察を強く勧める。リンパ節転移が著しい場合、腺外浸潤の可能性が高い場合は精査・治療の対象とする。15mm以上の場合は精査・治療の対象とし、穿刺吸引細胞診の対象とする、ということです。10mmを手術対象にするのではなく15mm以上とした理由は、15mm以上の発見率が0.27%であり10mm以上の発見率0.88%からかなり減少するからです。甲状腺がんは10mm程度でそれ以上大きくならない可能性が高いと判断できます。そのことを踏まえ適応を制限したのです。無症状の甲状腺がんの手術適応を15mm以上としても、まだ過剰診断・過剰治療の可能性は残ると考えられることを念頭におくべきでしょう。
ここで無実のがんという概念を提唱します。甲状腺の小型がんはまさにそれです。小型の甲状腺がんをあえて見つけない、見つけても刺さない、さらにはそのことを被検者に伝えない。日光の猿ではないけど、甲状腺の小型のがん『見ざる、刺さざる 伝えざる』です。
追記 お隣の国韓国の医師は、超音波を用いた「甲状腺がん検診」を広く行い、見つかった多くの小型の甲状腺がんを高価なロボットを用いて手術をし、その成果を国際学会や医学雑誌に発表しています。私がこの無実のがんの発表をした国際学会でも、私のポスターの横や後ろにダビンチ手術の成果を強調するポスターがありました。詳しい数値は忘れましたが100例以上のダビンチ手術、その平均腫瘍径は0.7cmであったと思います。全く意味のない手術をしているのだなあとそのポスターを見て強く感じたわけです。
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