昔から、「需要のあるところは何処だ」との問いかけから、事業を起こす手順が述べられる。確かに、需要があって、それに対する供給が不足している分野は、いわゆる「ニッチ」として存在することはあるだろう。
しかし、現代では多くの場合、需要があるからそこに供給を行うのでなく、供給が「需要を作り出す」場合が多いことを理解する必要がある。最近のデータによると、伸びている分野の多くは需要が不足している分野ではなく、需要はすでに満たされているが、新たな需要が開拓された分野になっている。
例えば、アップルは、iPod、iPhone、iPadで成功しているが、いずれも需要があり供給が不足している分野でなく、新たな需要を切り開いた分野である。
ジャン・ボードリヤール(フランス,哲学者)が述べているように、現代では、「供給が需要を作る」のだ。
一方で、需要があるにもかかわらず、供給が不足しているのは、規制分野のみだろうと考えられている。規制は、民間の分野よりも、公的資金を用いる分野に起こるようである。つまり、市場とは別に価格が決定されている分野だ。その為、公的資金を無制限に供給出来ない場合がそれに当たる(古い無意味な規制は除く―例えば農業、漁業など)。
代表格として、保育所と特別養護老人ホームを挙げてみよう。一般的に、両者とも、需要があるにも関わらず供給不足である分野とされ、保育所の場合は、待機児童が4.6万人(2015年10月時点)と言われ、減少傾向が見られない(図1)。
(図1)保育所の待機児童数(厚労省資料)
また、特別養護老人ホームでは、この数年間に大幅な定員数が増加した(つまり特養をたくさん作ったということ)にもかかわらず、待機者が50万人に達していると報道された。その後、待機者は40万人台、30万人台(2016年4月時点―いずれも厚労省調査)となぜか少し減少しているが(待機者自体が減少したのでなく、統計上の操作による)、待機者が多くいることには変わりない。
しかし、ここで少し疑問がある。保育所の場合、待機児童に合わせて保育所の増設を行っても、相変わらず、待機児童が湧き上がってくるのである。つまり、保育所が多く開設されると、今迄、保育所に預けることを考えなかった人たちが、保育所に子供を預け始めるので、自治体は、需要を満たしたからと言って、相次いで湧き上がってくる需要に対して果てしなく対応する必要が生じてくるのだ。
親の就業意欲が高い(仕事をしたい、あるいは賃金を必要としている)場合は、潜在的な需要が限り無くあり、社会的合意や制度が整うと、際限無く需要が発生するわけである。
特別養護老人ホーム(特養)も、建設すれば周辺からの入居者ですぐに満室になるという現象が見られる。この場合も、それまでの待機者と関係無く、特養が建てられたから入居するという、供給が需要を呼ぶ関係となっているのだ。
つまり、子どもを自宅で養育するか、保育所に預けるかは社会的規範であり、その一つの制約要素として保育所があるかどうかとなっているように、障害を持つ高齢者が自宅で過ごすか、あるいは、老人ホームへ送られるかは社会的規範であり、その一つの制約要素が特別養護老人ホームへ簡単に入所できるかどうか、になっているのだ。この様な場合、社会的規範が論じられずに、制限要素(保育所あるいは特別養護老人ホームが建設される)が解除されると、それにつれて、社会的規範が「自然に」変化していく。
社会がどのようにあるべきかが、議論なしに変化することは危険である。
民間企業が、新しい分野の需要を切り開き生活の質を高め経済成長をもたらすことは、一向に問題ないのだが、費用を一部公的資金で賄う保育所や特養の場合は、様相が異なる。果たして、供給を増して、この分野の需要を喚起することが適切なのかどうかが問題となるのだ。いずれの分野も供給を増やせば、財政的な負担が限りなく大きくなるのだ。つまり、財政的な負担の問題と公的サービス量との関係だ。
その判断は、どの様な社会を作るのかによって左右される。自宅での育児を中心に生活することを良しとする社会か、それとも、女性が社会で自由に活躍することを是とする社会かによって、政策判断が決定されるべきなのだ。
また、高齢者を老人ホームで生活させる社会か、あるいは、自宅で生活できる社会かによって、高齢者ケアの政策が決定されるのである。
需要があるからとか供給が不足しているから等の理由からでは無く、どの様な社会を望むのかによって、政策は決められるべきである。
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