8000万人の人口減少社会にどう向き合う?

日本でも、少しずつ人口問題の重大さが認識されつつあり、記事も多くなっている。気候変動問題と同じように、人口減少問題は短期的な変化でなく、徐々に影響が表れてくる出来事である。従って、政治的な日程には上りにくいが、影響の大きさからは、日本で最も大きな、やっかいな問題であることは確かだ。少子化で、現在の生まれる子供の数が少なくなっても、20-30年後にならないと、社会へ影響が表れない。気候変動の、小さな変化が積み重なり、時間が経った後に、やがて大きな気象の変化につながることと似ている。

国立社会保障・人口問題研究所の集計では、2020年日本の人口は1 億 2,615万人であった。そのうち日本人の人口は1 億 2,340万人である。従って、2020年時点での外国人は275万人程度となる。50年後、2070年の日本の人口は8,700 万人と推計されている。そのうち日本人は7,761 万人で、外国人は939万人となる。外国人の人口比率は2020年の2%あまりに対して、2070年には10.8%を占める。このような状態は、多少の上下はあっても、かなりの確率で生じるだろう。この状態を所与のものとして、日本社会がどのようにあるべきかを考えなければならない。現在まで述べられている多くの意見は、大幅な人口減少を防ぐために、日本人の人口を減少させない方法(少子化対策)、総人口を減少させない方法(外国人の移民を受け入れること)を説くものが多い。しかし、確率的に最も多い上記の状態が出現した場合、どのように対処すべきかを提案するものは非常に少ない。

例えば、岸田内閣が打ち出した、「少子化対策」などはその典型である。言うまでもなく「少子化対策」は人口減少にはあまり影響を与えない。出生率をわずかに上げても、50年後の人口減少にはあまり寄与しない。むしろ「少子化対策」は、現在子育てをしている女性や、対象となる子供に対する社会福祉政策と言ってもよいだろう。また、企業単位では、労働力の逼迫状態が激しくなる結果として、外国人労働者の雇用に力を入れる場合もある。個別の企業が存続のために行うことが、日本全体として有益なことかどうかはわからない。むしろ欧州のように、大量の移民のために政治の対立が激化することも考えられる。従って、政府にとって人口減少に対する対策は、目の前の問題を解決するようなものではなく、数十年単位での長い時代を見据えて、考える必要がある。無理かもしれないが・・・。

具体的な対策を考える前に、なぜこのような人口減少が起こるのかを考えてみよう。その為には、人口減少を次の3つの次元から考えることが出来る。第一のレベルは、生物学的な次元である。第二は、社会的な次元、第三には経済的次元だ。例えば、若者の給与が少ないので、子供をつくらなくなったとの論理は、あまりに短絡的な経済的次元しか見ていない結果である。では、草食系の若者が増えたのはなぜだろうか?多分経済的次元と言うよりも、社会的問題か、あるいは生物学的問題かもしれない。従って、上記の3つの次元から綿密に考える必要がある。また、当然ながら3つの次元はお互いに関係することもある。そして、生物学的次元は根が深く、社会的次元は改善することが難しく、経済的次元のみが政治的には、比較的簡単に解決できるものである。

第一の生物学的次元では、生殖活動の低下(何らかのホルモンかあるいは社会的要素が多いのかもしれない)、精子、卵子の強さなどが大きな影響を持つ。特に、生殖能力が低下すれば、人間の数には大きな影響があるだろう。エピジェネティックな変化(※1)が影響を与えている可能性がある。第二の社会的次元では、女性の解放が大きな影響を与えている。家を守ることが至上命題である時代は、女性の役割を限定したものとしていた。また、女性の社会的役割を否定することによって、ひたすら種の保存に女性を向かわせるようになっていたのかもしれない。女性が自由に行動することが出来る社会は、同時に子育てが盛んになる社会とは言えない。また、妊娠・出産の苦痛は、女性のみの問題なので、それを回避する傾向は出るだろう。オルダス・ハクスリーの『すばらしい新世界』では、発達した科学に支えられ、女性も男性も苦痛が少ない世界を生きていて、その代わり、それぞれの決められた役割を果たすように制限されている。胎児は受精卵の段階から人工子宮で育てられ、女性の苦痛を取り除いている。同様に男女ともに「ソーマ」という薬で、常に楽しい状態を保つように誘導されている。従って、出生する子供の数は一定で、人口問題は存在しない。このようなディストピア的な世界が近づけば、現在の人口減少問題の解決にもなる代わりに、自由な世界は消失する。生物学的次元や、社会的次元によって、人口問題が生じている可能性が高いとすれば、経済的支援はあまり役に立たない。しかし、前にも述べたように、経済的支援は、社会福祉的な政策として考えて行われるべきだろう。

我々がまず行うべきは、人口減少が人類の生き方の結果、必然的状態となった場合に、どのような社会を想定するのか、そして、市民の幸せを守るためには、どのような政策を行えばよいのか。人口減少が必然の状態となったとの仮定で、まず行わなければならない。その仮定を十分に議論した上で、人口減少社会での、各業種別に、具体的な社会システムを提案すべきだろう。

※1 エピジェネティック:エピジェネティクス変化とは、DNAの塩基配列を変えずに細胞が遺伝子の働きを制御する。エピジェネティックな変化は、遺伝子のオン、オフを決定するため、細胞内のタンパク質の合成に影響を与えていると言われる。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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