共産主義は、すべてを共有化し、個人の所有を否定することによって、格差のない世界を作ろうとした。その試みはソ連の崩壊と共に失敗した。それでは、共産主義の失敗から考えると、社会の大部分は、民間の所有であるほうがうまくいくのだろうか? 会社も所詮は株主のものであり、いわゆる「所有権主義(※1)」が通用するのだろうか? しかし、社会のすべての資源を個人が囲い込むことが良いとは、誰も思わないだろう。共有資産がなくなれば、トマス・ホッブズの言う「万人の万人に対する闘争」となり、争いが絶えなくなる。その結果、共有の存在として自分たちを統治する「リバイアサン」が生まれ、「1984」=ジョージ・オーウェルや、「すばらしい新世界」=オルダス・ハクスリーのような、全体主義的、独裁的な管理社会が登場するかもしれない。
共有資産の少なかった「リバイアサン」の時代(封建領主や絶対権力を持つ王の時代)は、政府はせいぜい国民の生み出す資産(国民所得)の1%程度を使って国を運営していたようだが(例えばオスマン・トルコ政府や江戸幕府など)、政府は次第に規模を大きくし、国民所得の10%程度を使うようになり(第一次大戦以前のヨーロッパ諸国)、その後現在では税や社会保障費によって吸い上げられる資金は先進諸国では、国民所得の45%にも及んでいる。もちろん、この資金は政府自身だけの為に使うのではなく、多くは国民への再分配に用いられる。現代は「所有権主義」が幅を利かせているようだが、実際には政府を通じて、資産の社会共有もかなり進んでいる。
実際、第一次大戦の1910年代から第二次大戦後1970年代までは資源の社会共有が盛んであった時代だった。しかし、それ以降は急速に個人主義が幅を利かせ始め、ひと昔前の「所有権主義」が復活してきた。一般的に株式会社の所有統治形態は、株主利益を優先するシェアホルダー型と,企業の多様な利害関係者を考慮するステークホルダー型の2つの類型が論じられている。「所有権主義」が広まるにつれて、1980年代以降は、株主を優先する風潮が強い。
現在の日本では、一般的な考えとして、会社は株主利益を優先するシェアホルダー型と思われやすいが、これは英米主体の考えである。ドイツや北欧は、会社の社会共有を行っている。ドイツの場合には、大企業は取締役会の2分の1、中企業は3分の1の範囲で、労働者の参加が義務付けられている。1949年のドイツの基本法には、財産権はそれらが社会の一般的福祉に貢献する限りにおいてのみ正当化されると言う文言がある。ただ、ドイツの共同型の問題は、会社が、単一の取締役会でなく、監査役会と執行役会からなる2頭体制によって運営されていると言うことだ。決定権を持つ株主は、執行役会のメンバーを好きなだけ任命できて、これが企業を統率する場合も多い(※2)。
スウェーデンの場合、従業員25人以上の企業では、取締役会の3分の1の議席が労働者に確保されている。スウェーデン企業はドイツと違って単一の取締役会によって運営されているので、労働者の実質的な経営支配は強い。また、スウェーデンの規定はドイツの規定、つまり従業員500人以上の企業にしか適応されないのと違い、かなり小規模の企業まで対象に入れている。デンマークとノルウェーでは、それぞれ、従業員35人と50人を超える企業の労働者に、取締役会の3分の1の議席が与えられている(※2)。これによって賃金格差の拡大、特に他国で見られる幹部報酬の高騰が抑制された。共同経営制度は、これ以外にも、労働者が職場委員会、組合代表、もしくは、その他の労働者のみからなる組織に代表を出し、雇用条件や賃金について、企業の経営陣と直接交渉ができる場合がある。
日本で抽象的に、ステークホルダーを重視することが必要だと言われているが、社会共有を進めるためには、現実的にステークホルダーを指定し、会社の運営に参加する方法を取らなければならない。
※1;所有権主義;資本主義は、私的所有権の保護を権利として尊重した。しかし、私的所有権が公益性を侵す場合があり、このような弊害を所有権主義という。
※2;トマ・ピケティ「資本とイデオロギー」
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