あるひとりの技能実習生が別の実習生を指差して言いました。「この人は大学院生です。」
廃止がほぼ確実の技能実習制度ですが、技能実習生の入国は止まっておりません。私、板垣岳人は行政書士をしております。入国直後の技能実習生に法律の授業をする機会があります。その授業でミャンマーから日本に来たばかりの技能実習生に教えました。その時に冒頭のやり取りがありました。この記事ではその事の詳細と背景、そして私の考えをお伝えいたします。この記事を通して、技能実習の現場を知ることができます。
その時に出会ったミャンマーからの技能実習生は全員女性で、全員が介護職で3年間働く予定です。まだ仕事は始まっていません。彼女たちは入国後講習(仕事開始前に1ヶ月間の講習期間が必須)を受けている最中です。私が授業をした彼女達は本当に優秀です。とても高い日本語能力を身に着けています。私が話す内容の大半を理解できている様子です。そして、日本語だけでなく、英語の能力も身に着けていました。
あまりの優秀さに驚いた私は彼女たちに質問をしました。「みなさんの中に大学を卒業した人がいますか?」と。そうすると半分くらいの人数が手を上げました。そして、その中のひとりがある別のひとりを指差し「この人は大学院生です。」と言いました。私が質問をしました。「専攻は何ですか?」そうすると彼女は「物理学」と答えました。今までに数百人の技能実習生と会っていて初めての出来事です。大学院生の技能実習生には初めて出会いました。技能実習生の大卒ですら珍しいのです。
ミャンマーは、今現在内戦状態です。そのことが原因で、大学が長期休校になっているようです。そのため、彼女たちは大学を中退して日本に技能実習生として来ているようです。彼女たちは「コロナと悪い政治のせい」と口々に言っていました。
そもそも、大卒であれば、技能実習以外の在留資格で来日して、働くことができます。在留資格は「技術・人文知識・国際業務」と呼ばれるものです。大学で身につけた高度な専門知識を活かした仕事や、通訳、貿易業務に就職することができます。そうであるにも関わらず、技能実習生として介護職に従事するのです。
それはとてももったいなく、残念に感じますが、仕方のないことです。入国のルートが限られているからです。日本で大卒水準の仕事に就職するルートよりも技能実習生として介護職に就職するルートのほうが、利用しやすいのです。技能実習制度は強固なスキームを確立しています。それは現地国の学校とのパイプです。
在留資格『技能実習』と『技術・人文知識・国際業務』の比較 (筆者作成)
「技能実習」と「技術・人文知識・国際業務」とでは、日本国内でできることに大きな違いがあります。それは「技能実習」の方が大きく制限されているという意味です。
●家族を呼ぶことができない。
●転職が自由にできない。
●試験に合格しなければ1年終了時点もしくは3年終了時点で帰国をする。
●永住申請の要件である10年要件に技能実習はカウントされない。
と言った違いがあります。『技術・人文知識・国際業務』と比較をすると大きな差です。特に「家族を呼ぶことができない」というのはとても大きな差です。というのも、母国の配偶者・子供を招くことができない、というだけでなく、技能実習生が日本で出産した子供は日本に在留できないのです。
そうなのです。技能実習生同士の間に生まれた子は出国しなければなりません。日本国籍を得ることも出来ません。
大卒であれば、日本国外の大学であっても、『技術・人文知識・国際業務』の在留資格で来日し、日本で働くことが出来ます。しかし、彼女たちはそうではなく、技能実習生として介護職で日本で働くことを選びました。優秀な人物が、その能力を活かすことができないことはとても残念です。しかし、本人たちにとって、技能実習制度が将来を切り開く手段となっていることも事実なのです。
技能実習制度という制度の難しさを改めて認識した出来事です。
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