移民を導入し、多様性を促進し、日本を開かれた国にすることが良策であるが、しかし、移民の導入には反対も多い。従って、移民を制限し、それでも日本社会が正常に働くためには、どのようなシミュレーションが考えられるかについても検討する必要がある。それには、産業ごとに将来の労働人口減少に対して綿密な対策を作ることが大切だ。企業ごとに対策を講じても、全体の構想がなければ、単に人材が充足している企業と、不足する企業が出来るだけで、社会全体としては、単なる人の取り合いとなり、うまくいかない。
国立社会保障・人口問題研究所による2023年の生産年齢人口(国籍に関わらず日本に常住する総人口を対象)は7386万人、2040年の予測生産年齢人口は、6213万人、つまり1173万人、率にして15.8%の減少だ。17年間の減少数としては凄まじい数だ。移民を入れない場合、この減少を国内の労働者で補う必要がある。この場合、女性や高齢者、あるいは今休職中の人を当てにすることは不適当である(※1)。
一方で、現在の日本の産業別労働人口は、下のグラフのようになる。分野別に見ると、最も就業人口が多いのは、医療福祉(17%)と製造業(17%)である。それに次いで、飲食宿泊サービス業(9%)、建設業(7%)、教育学習支援業(7%)、運輸郵便業(6%)、生活関連サービス業(4%)などが続く。この産業別労働者人口配分は、移民があまり入らない前提だと、大幅に変わらなくては産業が持たない。
経済センサス活動調査 2021年データより
これらの産業を分類すると、「対物事業」と、「対人サービス業」とに分類できる。この2つの分野は、それぞれ特徴を持っている。製造業、建設業、通信情報業、運輸業などを始めとする対物事業は将来の生産性は高くできるし、IT化に馴染みやすい。つまりこれらの産業は、努力すれば現在の生産量を維持しつつ、労働者を削減し、少子化にも耐えられるということだ。ITをフルに使って、将来は無人工場が、あるいは無人の建設現場、無人運転などが一般的になる。この分野での労働人口は、日本全体の約30%なので、削減率30%とすれば、減少する労働人口は650万人~700万人になるだろう。例えば、工場が100人で操業している場合、70人で行うということである。この目標へ達するには、凄まじい省力化投資が必要だ。特に中小企業がこの様な投資ができるかどうか、あるいは、それが出来なければ、中小製造業の統廃合が必要となるかもしれない。しかし、生産量は維持することが前提だ。
これに対して、対人サービスを主体とする産業は、さらに2つに分類できる。第一群の対人サービス業は、飲食宿泊業、金融業、賃貸業、生活関連サービス(洗濯、クリーニング、美容、理容、その他の娯楽、冠婚葬祭業)などである。これらは対人サービス業の性格として、金融業を除くと、生産性を高めることが難しい。しかし、サービスを継続するための人を確保するためには、給与を上げなければならない。給与の引き上げは、価格の引き上げを必要とする。サービスの価格が大幅に引き上げられると、もはやサービスを使わない人が増えてくる。現在もすでに起こっているように、理容や美容の回数を減らし、飲食や宿泊の頻度を少なくするようになる。この分野では、価格の上昇によって需要が減少し、サービス全体が縮小し、従事する労働人口が少なくなるなど、一般的な経済の法則に従う。この分野は、労働者の20%程度を占めるので、サービス自体が20%減少すると、約300万人の減少となる。この場合、個々のサービスで人員の削減はなく、サービス量自体が縮小する。この2つで合計約1000万人の減少となるが、それでも生産年齢人口が1173万人の減少には追いつかない。しんどいことだ。
サービス業のあと一つが最も難題である、医療・介護福祉、保育、教育産業などである。これらの多くは公的資金によって支えられている。つまり、これらのサービスは公益的に必須であり、縮小することが難しいし、ITを使ってもあまり生産性は上がらない。従って、これらの産業では、労働者の減少は見込めない。むしろ増加が求められている(※2)。そして、現在の労働者数を確保するためには、賃金を大幅に引き上げ、人材を確保する必要があるだろう。しかし、サービス量を減らさないで、賃金の引き上げを行うには、社会保険料の大幅な上昇(医療や介護)や増税(教育費の上昇)を伴うことを覚悟しなければならない。
このように、各産業別の将来労働人口を簡単に予測し、日本全体の労働人口の減少程度を見通すことによって、将来の労働者の必要数はある程度見通すことが出来る。そして、最も問題が発生する分野は、医療介護などの公的サービス部門だろう。製造業などの生産性が飛躍的に上がり、賃金が上昇すること、そして、一般のサービス業の価格が上がりそれにつれて給与もあがること(サービス供給は減少する)、それらに対抗するだけの賃金の引き上げを行うための、社会保険料や税の引き上げを実現することが可能かどうか? 不可能なら、供給を減らせない公的サービス労働者の減少は、由々しき結果を招くだろう。
※1;すでに1995年からの生産年齢人人口減少過程で、女性の就労率、高齢者の就労率は大幅に上昇している。これからのさらなる生産年人口の減少過程で、過去の現象を追認することは、不適当だ。
※2;例えば、介護労働者は、都道府県の集計で、2040年には現在より69万人増加しなければならないとされている。
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