移民を入れる前提で議論を進めてみよう。最終的に2040年度には、かなり多くの外国人労働者を必要とする前提であれば、(外国人比率が10%程度)、外国人を短期労働者のみでなく、移民(定住して過ごす人たち)として考える必要がある。その為には、外国人を「周辺化(marginalization)」しないための政策が必要だ。「周辺化」とは、社会の隅の方に外国人を追いやるような政策だ。画一的な習慣や教育は、それに馴染めないものを排除して「周辺化」する。「周辺化」は犯罪や貧困化を促進する。「周辺化」を防ぐには、多様性を容認することが不可欠なのである。多様性の乏しい「同化政策(assimilation policy)」は「周辺化」を引きおこす。「同化政策」とは、外国人に対して、今までの日本的慣習を強いるような政策である。つまり、「同化政策」と「周辺化」は同時に起こりうるのである。この様な状態を防ぐには、「同化政策」ではなく「統合政策(integration policy)」が必要となる。「統合化」とは、外国人のそれぞれの文化習慣も尊重しながら、同じ社会で暮らすことである。
「統合化」するためには、一部日本的な慣習を放棄するか、違う習慣を許容する必要がある。普遍的な倫理性があるもの(モーゼの十戒の後半5つや、交通ルール、ごみの分別など)は、変える必要はないが、多くの習慣はただ何となく行われているものが多い。例えば、学校での制服やランドセルの半強制、町内会に入るかどうか、PTAなどへの参加の有無、入浴の習慣(体にタトゥを入れている人は一緒にお風呂に入れないなど)、あるいは最も重要な、自分の意見を素直に表明しないことなど、である。これらの慣習は、長い間日本に根づいているので、簡単に放棄することが出来ないものが多く、一律に変えるのではなく、その都度議論を経て変える必要がある。同化政策でなく、統合政策を使う場合は、日本文化の変容を許容することが必要だ。
制度的な面からの統合政策では、生活全般を見ると同様に、賃金と労働環境に焦点を当てる必要がある。日本の労働環境は建前と本音の使い分けが目立ち、日本人の間でも、労働法規が十分守られているかどうか疑問である。例えば、同一労働同一賃金の原則は、施行以来、建前では行われていることになっているが、本音の領域ではあまり浸透していない。同じ仕事をしている場合の正社員と非正規社員との賃金格差、あるいは男女の格差などが顕著である。同一労働同一賃金の法則を守るなら、同じ仕事をしている日本人と外国人との間に給与の差を設けてはいけないのだ。
統合化政策の次は、組織での地位の問題と、それと並行するかもしれないが、滞在期間を前もって決める仕組みが必要だ。この仕組みでは、一定の期間をもって、「定住権」を与える方法となるが、どの程度の期間あるいはどの程度のスキルによって「定住権」を与えるかが問題だ。これを厳しくすると、貴重な期間を浪費することになる。試しにまず、数年間行った後に改めて考えるのではなく、すでに1989年からの外国人労働者を受け入れている経験から、早急に仕組みを決める必要がある。この様な「定住権」の問題は、移民という言葉を一般化させる可能性があり、移民によってさらに排他的な動きが強くなる可能性を見ることが必要となる。
問題はこれらの「統合政策」が今の日本で出来るかどうかなのである。理念のない政策を続ける日本で、明確な「統合政策」が果たして可能かどうかには大いに疑問がある。そして、明確な統合政策なしに移民を受け入れれば、現在の欧州以上の民族的分断が起こる可能性があるのだ。
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