母国の政治や社会状況などのために生命や身体に危険が迫っている人々の中には、とにかく母国を脱出し、たどり着いた国で保護を求めて難民申請をするしかない人も少なくない。そのような人々にとって、わが国は、危険な母国からはるかに遠い「極東」の島国であり、「安全」な「法治国家」のイメージも強いことから、避難先の候補地として浮かびやすいようである。
難民申請をする人々は、安全、安心で安定した生活を求めていることもあり、なるべく合法な形で入国し、合法な形で滞在しようとする。したがって、特に周囲を海に囲まれたわが国を目指す場合は、漁船などを用いた「密入国」ではなく、何らかのビザを取得し空港などから入国するのが一般的だし(結局その方が早い)、入国後は、オーバー・ステイや不法就労に陥らないよう、在留期限内に入管に出頭して難民申請を行おうとする人が大半である(出稼ぎを継続したいというだけの理由で便宜的に難民申請を行う人が急増した時期があるが、現在は難民申請をしても審査期間中の就労は認められなくなっている)。
しかし、わが国は、政府が有用と考える「高度人材」の外国人は積極的に受け入れる一方で、「いわゆる移民政策」はとらないとの立場を掲げ、学歴や技能、血縁や婚姻関係、あるいは資産のない外国人の永住化につながる受け入れを拒み続けている。難民政策についてもこの姿勢は一貫しており、認定率は諸外国に比べて極端に低い。そればかりか、2021年には、難民申請が不許可となった外国人の再申請を制限し強制帰国させるための入管法改定案が閣議決定され、国会に上程された。
この法案は、その非人道的な内容に反対する広範な運動や世論により、廃案に追い込まれた、はずだった。
ところが岸田政権は、反対の声に耳を塞ぎ、名古屋入管に収容されていたウィシュマさんの死も直視せず、2023年3月7日、またぞろ、ほぼ同内容の法案を提出した。そして、難民審査の実情に関する立法事実の崩壊が明白になる中で、2023年6月8日、参院法務委員会で強行採決し、翌6月9日に国会で成立させてしまった。
このままでは、1年以内に、次のような新しい内容が施行されることになる。
第一に、難民申請を2回不許可とされた人物が3回目の申請をすると、退去強制(強制送還)の対象とされる。
第二に、強制送還を拒否すると、懲役などの刑罰を科される。
第三に、監理措置制度が設けられ、収容の代わりに民間の監理人の監理下で生活する場合があるが、生活状況の報告義務などに違反すると監理人にも制裁が科される(10万円以下の過料)。外国人本人は、就労すると1年以下、逃亡すると3年以下の懲役が科される。
帰国すれば生命の危険がある外国人にとって、以上の内容がどれだけ過酷なものであるかは、通常の想像力があればすぐに理解できる。2回不許可を出されてもまだ申請するのは、図々しいからではなく、命が掛かっているから懇願しているのだ。命乞いを理由に死刑を宣告し、往生際が悪ければ刑罰を科す。これが、新制度の本質に他ならない。
そして、監理措置制度である。これまで身元保証人(制裁規定など無し)として仮放免者を受け入れてきた支援者であっても、リスクを伴う監理人になることは難しい。新たな貧困ビジネスとして、家族や支援者から監理を請け負う「監理アパート」のような民間収容所が出現することが容易に予想される。
私はいま、「神戸移民連絡会」という団体で、タンザニア人ゲイ・カップルの難民申請を支援している。すでに2回目の申請なので、極めて危険な状態にある。タンザニアでは、同性愛の行為には、終身刑または懲役30年が科される。入管当局は、本人が迫害を受けた具体的な証拠の提出に拘っている。「あなたはワニの沼には戻れないと言うが、あなたがワニに噛まれた様子は確認できない。あなたはワニに喰われないタイプのようだから沼に戻りなさい」。要するに、そう言っている。なぜその異常さに気づかないのか、不思議でならない。
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