この30年間にわたる日本経済の低迷に対して、政府は、経済対策をその都度、場当たり的に打ってきた。最初の10年間は必死で、そしてその後の20年間は政権維持のために。しかし、経済は依然として20世紀後半のようには上向く兆しがない。経済対策が有効でないのは、長期的な見通しをもとに、経済対策を行っているとは言えないか、あるいは、日本文化の特徴が想定する経済成長を生み出さないのか、そのどちらかである。30年前の低迷期の初期には、経済が将来どのような経過を取るかは予想することが難しいが、時間が経つに従って、その本質が見えてくる。日本経済の長期低迷のうち、1990年からの10年間程度は、バブルの崩壊がもたらした「激震」に対する後遺症と言えるものだったのだろう。しかし、後遺症が癒えて、2000年を過ぎた頃から現在に至る約20年間については、もはやバブルの影響とは言えず、日本の構造的な問題が経済に影響を与えているとしか考えられない。その理由は次のようなものだろう。
第一に、バブルの反省の影響もあり、日本人は以前の穏やかな購買意欲に戻ったのではないか。以前の購買意欲とは、言葉を変えれば、欲求がさほど強くなく、「ほどほど」である状態だ。そもそも、つねに強い強欲的欲求を示し、ものに執着して購買意欲が強い社会(借金をしてまで欲求を満たす社会)が理想的であるとは言えない。しかし、一方で資本主義は消費を求め、消費によって経済を成長させる。「もっともっと」の強い欲求を示す人々が暮らす国々の間で、「ほどほど」の欲求しか持たないことは、相対的に消費の停滞を招き、経済力の低下を意味する。「ほどほど」の欲求を前提としつつ、経済成長を伴い、いわゆる「国力」を上げることは至難の業である。
第二に、需要の低迷のもう一つの原因として、将来に対する不安によって貯蓄に走り、結果的に消費行動を低下させていることが考えられる。社会保障制度に対する不信感(年金や医療の確実な提供が期待できないこと)が原因となり、将来不安を起こしている可能性があるのではないか。将来の社会保障の構造は2012年、自民と民主が合意した、税と社会保障の一体改革によってある程度示されたが、その後、社会保障の将来像は示されていない。結果的に、国民の不安を増幅している。年金の将来給付の持続可能性に対する疑問、医療、介護の持続可能性が保障されているのかについて明らかにはなっていない。
第三に日本経済の構造的な問題のうち、経済低迷の最も直接的な原因と考えられるのが人口減少だ。人口減少による経済の停滞は現実的、物理的な問題である。人口減少、特に働く人の減少(生産年齢人口の減少)は、現実的に経済を低迷させ、先送りに出来ない問題となっている。下図で見られる、日本と米国、ドイツの違いは、日本の労働寄与度がマイナスになっていることが大きい。
図1
経済産業省資料
問題は、差し迫っている生産年齢人口の減少に対する考えが、政府の中にも、国民の間にも十分に危機感として認識されていないことだ。選択肢は狭まっている。人口減少を容認しないなら、移民を入れ、人口減少を緩和すべきだろう。その結果、日本文化は変化を免れない。文化の変容を容認しないなら、移民を入れずに(あるいは少数にとどめ)、経済の縮小は許容し、新しい文化的生活を目指すのか、が問われる。
移民を促進するための方策は、ある程度決まっている。秩序を持って、計画的に移民を導入することだ。早期に、そのためのプランが必要となる。移民を導入するための基本的な構えも議論しなければならない。当然ながら、移民を安価な労働力とみなす考えは排除すべきだ。
それにも増して必要なものは、移民を少数しか入れない場合(年間現在よりも少ない10万人程度)の社会がどのようになるかのシミュレーションを描くことである。人口減少で日本のGDPは低下するが、一人あたりのGDPを減少させないか、あるいは増加させる方策があるかどうかが問題である。一人あたりのGDPが減少せず、全体のGDPは減少するシナリオは、許容範囲である。しかし、防衛費の増強や各種の予算を伴う国家戦略は大幅な変更を迫られる。移民を大量に導入するか、あるいは、少数に留めるか、今必要なことは徹底的なシミュレーションと、それをもとにした議論である。
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