仏教は唯一「神」が存在しない宗教である。しかし、大日如来、阿弥陀如来、あるいは釈尊(お釈迦様)などは「神」ではないのかと言う向きもあるが、それは仏教の一部に過ぎない考えで、基本的に「神」はいないと言ってもよい。ブッダの生きた時代を反映する書物からは、彼は超越的な「神」の存在を考えるよりも、実践を重んじたことがうかがえる。例えば、宇宙はどのようになっているか、人が死んだら來世はあるかどうか、などの疑問については「わからない」との立場を貫いた。仏教での教えは、死者に対してではなく、生者に対しての教えである。そして、全ての存在および物事は、無常、苦、無我であるという仏教の根本思想(三相)であることだ。まず人生は「苦」であることを理解すべきであると言っている。苦の典型は「死」であるし、その手前には「老」がある。そして、生きて行く際には無数の困難が横たわり、それらを克服していかなければならない。このように「苦」が避けられないなら、「苦」に満ちた人生をどのように送るのかが現実的課題となる。仏教は葬式や死後の弔いなどの為にあるではなく、「苦」に満ちた人生を送るには、何が必要かを説いたものである。
不満足・怯え・心配・悲嘆・不安・恐怖・嫉妬・妬み・劣等感などの多くが「苦」をもたらすものだ。しかし、これら「苦」は、自然選択での優位性を保つために、進化が作り上げた認識の仕組みから生まれている。例えば、足元に紐があるとき、蛇だと思って、飛び上がるのは、蛇に噛まれることを防ぐ進化の仕組みである。その代わりに、紐を蛇と間違うような「恐怖」を味わわなければならない。これと同じように、困難なことに遭遇したとき、人間は思い悩む。思い悩んだ結果、解決策が見つかるわけだが、その間、大きなストレスが生じるのだ。言うなれば、人間は困難を解決しようとして、自ら悩み、ストレスを背負うのだ。その結果困難に打ち勝ち、生き残れば良いが、無駄なストレスを抱え込み生活に困難が生じる場合は問題だ。これらが「苦」のもとになるとすれば、これらの原因で悩む人は、進化のために備わった人間の認知システムを変更しなければならない。
さらに、すべての人は「苦」の典型である、「死」を意識するとき、解決出来ないストレスを抱え込むようになる。この様なときに、「無常※1」の考え方が登場する。「死」は何らかの方法では解決できない。しかし、「無常」を理解すれば「死」を克服できるかも知れないのだ。また、すべてのものが「無常」であるなら、自分自身も一定の形態はなく、自己以外のさまざまなもので成り立っていること、つまり、「無我」であることが明らかとなる。仏教はこのように、「神」を想定して、その前にすべての人が平等であるとの考えを取らず、すべての人は「無常」「無我」をしっかりと認識して、人生を送るべきであると問いている。この点から、他の宗教とは大きな違いがあり、むしろ哲学に近いと考えている人も多い。
仏教では瞑想を推奨している。瞑想では静かに考えが沸き起こるのを観察する。そして様々な考えが自分の中にあり、それらを客観的に見ることを勧める。どうしようもなく、こだわっていた考えを客観的に観察することによって、違う視点から眺めることを促すのだ。細かい教義はさておき、仏教の現代に対する最大の貢献は、「無常」の考え方を示したことであり、さらに、「無常」を理解するために、論理だけでなく、「瞑想」を取り入れたことだ。
「神」がいない仏教は、現代科学とも相性がよい。「無常」は現代のエントロピーの法則(熱力学第二法則)と一致する。エントロピーの法則では、すべてのものは変化して同じ状態に留まることはなく、一定の状態にとどまろうとすると、何らかのエネルギーを必要とする。この場合、無理に一定の場所に留まるための無駄なエネルギーを使わず、流れのままに生きていく方法もあるということだ。
(※1)無常;一般には人生のはかないことを指しているが、ほんとうの意味は、この世の中の一切のものは、常に変化して、永遠不変のものはないということ。
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