人口統計と多様性

日本社会における人口構成を把握するにあたり、多くの人は人口統計を確認するだろう。総務省によると、2023年1月現在の日本の人口は1億2,451万6,877人であり、そのうちの2.4%を占める約300万人が「外国人」であるとされている。全人口に占める「移民」(外国生まれの住民)の割合は、アメリカにおいて13.7%(2020年現在, Pew Research Center, 2020)、フランスにおいて10.3%(2021年現在, Le Mode, 2023)なので、「2.4%」というのは、これらの国々と比較して、日本はあまり多様ではない、という印象を与える数字であると言える。

一方、考えなければいけないのが、この「外国人」と分類される人々の割合だけで、日本における多様性の現状を把握できるのか、ということである。ここにおける「外国人」とは、外国籍保持者のことを指すが、日本の人口統計において、この国籍にもとづく分類以外(性別・年齢をのぞいて)、日本の「多様性」を示す項目はない。しかしながら、80年以上前の国勢調査を見ると、当時は必ずしも国籍別に人口を分類していなかったことがうかがえる。神子島(2018年)によると、戦前の日本人口は「日本人」「朝鮮人」「台湾人」「樺太人」がいるとされ、1920年の国勢調査では、日本人以外の人々は「植民地人」、1930年には「外地人」と分類されている。留意したいのは、これらの植民地出身者は、当時日本国籍を保持していたということである。したがって、当時は出身地および民族別に人口を分類していたのである。ちなみに、1945年当時、日本の「本土」に在住していた「朝鮮人」だけみても、全人口の2.9%を占めていたとされており、この分類の人々だけで現在の「外国人人口」の割合を若干上回っていたことを示す。

人口統計で使われるカテゴリーが歴史的に見て変化することはまれなことではない。例えば、アメリカでは、同国初の国勢調査時(1790年)は、人口を「自由な(奴隷ではない)白人」「奴隷(黒人)」および「その他」に分類していたが、現在では、人種・民族カテゴリーをもとに「白人」「黒人もしくはアフリカン・アメリカン」「アメリカン・インディアン及びアラスカ先住民族」「アジア人」「ハワイ先住民族および太平洋諸島民族」「その他の人種」「ヒスパニック」に分類されている(Pew Research Center, 2020)。 また、マジョリティーである「白人」のカテゴリーも、国勢調査上ではほぼ変化はないが、その社会的意味が変わったことが指摘されている。つまり、1950年代頃までは、アイルランド系、イタリア系、ユダヤ系などの人々は、「白人」として認められていなかったが、その後アジア系移民が増加し、人口構成が変わっていく中、これらの人々が白人に含まれるようになったのである(Yang & Koshy, 2016)。現在の人種・民族の分類に基づくと、2022年現在、アメリカ全人口の58.9%が「白人」とされており(United States Census, 2022)、2045年には人口のおよそ50%になることが予想されている(Frey, 2018)。こうした変化をみると、人口カテゴリーの恣意性がうかがえるとともに、アメリカの移民人口の割合が示す以上に同国の人口が多様であることもうかがえる。

話を日本の人口統計の話題に戻そう。なぜ、戦後、国籍をもとに人口統計をとらえられるようになったのだろうか。それは、おそらく、戦後植民地が独立し、植民地出身者の日本国籍がはく奪され、「外国人」となったからだと考えられる(小熊, 1995年)。そして、結果的に「日本人」「外国人」という二元的な人口分類が一般的になったと考えられる。一方で、現代社会において、この二元的なカテゴリーにあてはまりにくい人々もいることが指摘されている。例えば、いわゆる「ハーフ」と呼ばれる人々は、日本国籍を保持していることがほとんどであるが、外見などから「外国人」だと判断され、一般的な「日本人」とは異なる経験をすることが多い(下地, 2018年)。また、先述した植民地出身者の子孫(在日コリアンなど)の多くは、戦後、外国籍を保持してきたが、その後日本国籍を取得した者や「日本人」と結婚して生まれた子どもも少なくなく(月刊イオ, 2017年)、国籍をもとにした分類だけでは彼らの全体像が見えてこない。加えて、「日本人」「外国人」の二元的なカテゴリーは必ずしも現代社会における課題を把握するのに有益ではない。例えば、文部科学省(2022年)は、公立学校における日本語が必要な児童・生徒数を調査しているが、こうした児童・生徒は、必ずしも皆外国籍をもつ子どもたちとは限らず、日本国籍をもつ子どもたちも含まれている。こうした現状をふまえて、国籍別のカテゴリーである「日本人」「外国人」の二元的なカテゴリーが現代社会の人口構成を把握するうえで有効なのか、そして、このカテゴリーにあてはまらず、統計上、不可視化されている人々がいないか、いま一度考えていく必要があるのではないだろうか。

【参考文献】
小熊英二, 1995年,『単一民族神話の起源――<日本人>の自画像の系譜』, 新曜社.
神子島健, 2018年, 「1930年国勢調査に見る多摩地域の朝鮮人」, 『緑の風』vol. 220, pp. 15-17.
下地ローレンス吉孝, 2018年, 『「混血」と「日本人」——ハーフ・ダブル・ミックスの社会史』, 青土社.
総務省, 2023年, 「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数のポイント(令和5年1月1日現在)」. https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/daityo/jinkou_jinkoudoutai-setaisuu.html
月刊イオ, 2017年,「在日同胞とは何か?同胞特別永住者数統計に思う」, https://www.io-web.net/ioblog/2017/06/02/76802/ 
文部科学省, 2022年, 「日本語指導が必要な児童生徒の受け入れ状況等に関する調査(令和3年度)」, https://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/31/09/1421569_00004.htm 
Frey, W. (2018). The US will become ‘minority white’ in 2045, Census projects. Brookingshttps://www.brookings.edu/articles/the-us-will-become-minority-white-in-2045-census-projects/
Pew Research Center (2020, February). Race and ethnicity in the U.S. Census. https://www.pewresearch.org/interactives/what-census-calls-us/
Pew Research Center (2020, August). Key findings about U.S. immigrants. https://www.pewresearch.org/short-reads/2020/08/20/key-findings-about-u-s-immigrants/
Le Monde (2023, March). One in 10 people in France an immigrant, says national statistics agency. https://www.lemonde.fr/en/france/article/2023/03/30/one-in-10-people-in-france-an-immigrant-statistics-agency_6021240_7.html
Yang, P. Q. & Koshy, K. (2016). The “Becoming White Thesis” Revisited, The Journal of Public and Professional Sociology, 8 (1), 3-27. https://digitalcommons.kennesaw.edu/jpps/vol8/iss1/1
U.S. Census (2022). Population estimates, July 2022. https://www.census.gov/quickfacts/fact/table/US/PST045222

ソシエタス総合研究所 研究員相川 真穂
神奈川県横浜市出身。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業後、2011年に大学院進学のために渡米。メトロポリタン州立大学大学院修士課程(ミネソタ州)にて心理学を専攻し、移民・難民のウェルビーイングに関する研究を行う。2013年に修士課程修了し、その後一度日本に戻って障がい者福祉に携わる。2016年にクラーク大学大学院(マサチューセッツ州)の博士課程(社会心理学専攻)に進学し、周縁化、差別、抑圧などの問題について幅広く研究してきたほか、研究助手として性暴力防止プロジェクトにも従事した。2021年10月より、同大学院博士課程にて研究を続ける傍ら、橋本財団ソシエタス総合研究所の研究員として勤務する。
神奈川県横浜市出身。津田塾大学学芸学部国際関係学科卒業後、2011年に大学院進学のために渡米。メトロポリタン州立大学大学院修士課程(ミネソタ州)にて心理学を専攻し、移民・難民のウェルビーイングに関する研究を行う。2013年に修士課程修了し、その後一度日本に戻って障がい者福祉に携わる。2016年にクラーク大学大学院(マサチューセッツ州)の博士課程(社会心理学専攻)に進学し、周縁化、差別、抑圧などの問題について幅広く研究してきたほか、研究助手として性暴力防止プロジェクトにも従事した。2021年10月より、同大学院博士課程にて研究を続ける傍ら、橋本財団ソシエタス総合研究所の研究員として勤務する。
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