【多文化共生・岡山#4】婚約者とともに技能実習中 ベトナム出身 グエン・ファット・タイさん

岡山県内の在留外国人は、現在2万9435人。県人口の1.57%にあたる(2021年、岡山県調べ)。
その数は年々増加傾向にあり、近年では職場や地域で、外国の人たちと触れあう機会も増えているが、じっくり話を聞ける機会はあまりない。
岡山にはどのような外国人が、どのように暮らしているのか。さまざまな外国人の背景や生活、思いを知って相互理解を深めたいと、今回、総社市に住む5人の外国人に話を聞いた。

――タイさんが日本に来たのはいつですか?
ベトナムの大学で勉強した後、2019年10月に総社市に来ました。車の部品の溶接をする会社で、技能実習生をしています。今年25歳です。

――総社は住みやすい?
買い物もしやすいし、生活しやすいです。日本に来たばかりの頃は、困ることも多かったですが、だんだん慣れてきたら普通に生活できています。やはり、一番困ったのは日本語です。来日したばかりの頃は、少ししか日本語が分からなかったので、毎日少しずつ友人と会話して、慣れていきました。

――職場で?
はい。フィリピン人や日本人と結構話しています。

――前回インタビューしたチェンさんは、職場はベトナム人ばかりだから日本語を話す機会がないと言っていましたが、タイさんはあるんですね。
会社によって全然違うようです。あとは自分で勉強しています。インターネットでも勉強できます。ベトナムから、本も持ってきたので、それを見て、漢字や文法を毎日少しずつ勉強するんです。日本語はとても難しい。漢字や文法とか。漢字は文字で見れば、意味はだいたい分かるのですが。
今は日本語能力試験のN3を勉強中です。日常会話に慣れてきて、試験前にあまり勉強しなかったら不合格になってしまいました。

――日本を選んだ理由を教えてください。
お金を貯めるためです。日本のアニメも好きでした。コナン君とかちびまる子ちゃん。

――技能実習で酷い待遇を受けたことはないですか?
お金を貯めるために、あっても我慢します。でも今はないです。最初だけ少し大変でした。最初の頃は、私のところに仕事がたくさん来てとても疲れたのですが、周りの人が手伝ってくれました。慣れたら大丈夫。

――タイさんは寮に住んでいるんですか?
アパートで、2人で一つの部屋をシェアしています。食事も毎日自分でつくっています。ベトナム料理。日本の料理をつくりたいのですが、調味料がわからない。ベトナムの調味料はお店で買えます。15歳の時から自分で料理をつくっていました。お父さんから教わったんです。

それから、私は日本に来る前に付き合っていた彼女と婚約したんです。私は大学を卒業したらすぐ日本語センターで勉強して来日したのですが、彼女は卒業後ベトナムの会社に入ったので、3年間離ればなれになるのは大変だから別れようと私は言ったのですが「愛しているので別れないで」と。その後、彼女も日本に来たいと言って、後から日本に来たんです。総社市内の食品関係の会社で働いています。近くだから、今は毎日会える。私がつくったごはんを、彼女と一緒に食べています。

――彼女とのデートは、どういうところに行きますか?
おもに総社で、倉敷の美観地区や岡山に行くこともあります。

――技能実習が終わった後の夢は?
ベトナムに帰って結婚して、両親と一緒に住みたいですね。私は3人きょうだいの一番下なので。ベトナムでは末っ子が家を継ぐことが多いです。
日本語と技術を活かして、ベトナムの日本企業に入りたいです。大学でも機械設計の勉強をしていたので、今も仕事の合間に図面を書いたりしていて、やりたいことはたくさんあります。

◆取材後記
県内の在留外国人の中でも、最も多いのがベトナム人、そして技能実習生だ。2022年末時点で国内の技能実習生はおよそ32万5000人で、ベトナムはそのうち5割超を占める最大の送り出し国だ。
原則として転職が認められていない技能実習制度は、人権侵害の温床として国内外から多くの批判があがっている。昨年、岡山市内の建設会社で技能実習生が暴行を受けていたことが全国的にニュースになった。そのため、タイさんにひどい目に遭っていないかお聞きしたが、幸い良い会社だったようで、その点安心した。
一連の取材をコーディネートしてくださったブラジル出身の総社市職員、譚俊偉(たんしゅんわい)さんによると、そうした会社は珍しいという。譚さんのこの言葉が心に残った。
「今回、在留外国人の取材ということで、つらい体験をしている人も紹介しようかと思ったのですが、タイさんたちのように、夢や向上心をもって、仕事も勉強も頑張っている人を、もっと知ってほしい。そうしたら、自分の会社の技能実習生とも話してみたいと思うかもしれない。そうやって少しずつ変えていきたいですね」

 

ライター/編集者黒部 麻子
1981年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、出版社に勤務。2011年の東日本大震災をきっかけに、翌2012年に岡山県に移住してフリーランスに。取材、執筆、編集のほか、2022年公開のドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」をプロデュース。
1981年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、出版社に勤務。2011年の東日本大震災をきっかけに、翌2012年に岡山県に移住してフリーランスに。取材、執筆、編集のほか、2022年公開のドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」をプロデュース。
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