【多文化共生・岡山#3】技能実習4年目、勉強熱心な努力家 ベトナム出身 ゴー・ヴァン・チェンさん

岡山県内の在留外国人は、現在2万9435人。県人口の1.57%にあたる(2021年、岡山県調べ)。その数は年々増加傾向にあり、近年では職場や地域で、外国の人たちと触れあう機会も増えているが、じっくり話を聞ける機会はあまりない。
岡山にはどのような外国人が、どのように暮らしているのか。さまざまな外国人の背景や生活、思いを知って相互理解を深めたいと、今回、総社市に住む5人の外国人に話を聞いた。

――チェンさんは、いつベトナムから日本に来られましたか?

2019年ですが、最初は総社市ではなく、石川県白山市の会社に技能実習生として入りました。お土産用の箱を作る会社だったのですが、コロナ禍になって仕事が減り、外国人はみんなお休みしてくださいということになりました。それで、ベトナム人の友達からの紹介で、2021年8月に総社市に来ることになりました。今は食品関係の仕事をしています(*1)。

私はベトナム北部のいなかの町で育ちました。4人きょうだいの末っ子です。日本では長男が大事にされることが多いですが、ベトナムでは、末っ子。結婚したら家をもらうのも末っ子です。
両親は私に進学してほしかったようで、日本に技能実習で行くと言った時は、最初は少し反対されました。でもベトナムで進学しても、好きな仕事に就くのは難しいから。コネクションやお金がないと、頑張ってもいい仕事には就けません。

――日本に来ようと思った理由は?

一番は、お金を稼ぐことです。他の国も考えましたが、日本が第一希望でした。お金を稼ぐには、今は韓国のほうが高いのですが、日本のほうが治安がよく、安全だと思いました。
子どもの頃から日本のマンガを読んだり、アニメを見ていました。ドラゴンボール、ドラえもん、コナンなど。日本の映画も見たりして、ずっと日本に興味はあったのですが、でもそれより、やはりお金を稼ぐというのが一番の目的です。

――昨年、ベトナム人の実習生が岡山市内の実習先の会社で暴言や暴行を受け、全国ニュースになりました。チェンさんはそういう目に遭ったことはないですか?

見たことはあります。でも私はない、大丈夫です。あと、そういう話はどの国でもあります。日本はまだ安全だと思います。

――日本で困ったことや、不便なことはありますか?

一番困ったのは話すことです。言語。日本語は、ベトナムで8ヵ月勉強してから日本に来ました。技能実習生たちが勉強するセンターがあって、そこで日本語や文化、仕事のための技術も学びます。
今は日常会話はだいたい大丈夫になりましたが、今度は日本語を活かすチャンスがあまりない。職場はほとんどベトナム人なので。
今もオンラインで日本語の勉強を続けていますが、今度日本語能力検定のN2をとりたいと思っています(*2)。

――日本とベトナムとで、文化が違うなと感じることはありますか?

あいさつですね。ベトナムでは、親しい人にしかあいさつしません。社長が従業員にあいさつするとか、上司が部下にあいさつすることはありません。でも日本では朝会社に行ったらみんなにあいさつする。それが一番びっくりしました。はじめの頃はそれが分からなかったので、あいさつを返しませんでした。
それから、日本人は些細なことでも「ありがとう」を言う。だんだんそれも分かってきました。

――日本人は大したことじゃなくても、しょっちゅう「すみません」と言うという話はよく言われますよね。「ありがとう」も多いんですね。

はい。それはいいことじゃないですか。日本人の礼儀とか、そういう気持ちが分かってきました。

――技能実習生として日本に来るときには高い費用が必要だと聞きました。

全部で80万円くらいかかりました。その時に両親から借りたお金は、もう返しました。毎月のお給料からアパートの家賃などを引くと、10万円くらい残ります。そのお金を今ためています。
趣味にも少しお金を使うことができています。趣味は、本を読むこと、サッカー、あと楽器を少し。ギターとピアノの勉強を始めました。電子ピアノも買いました。

――今後の夢は?

今はまだ少し迷っていますが、将来は海外がいいですね。オーストラリアに留学したいなと思っています。

【取材後記】
あいさつの文化の話には驚いた。取材に同席いただいたブラジル出身の総社市職員、譚俊偉(たんしゅんわい)さんも、チェンさん同様、あいさつの文化に最初は戸惑ったという。「私のことを知らないのになんであいさつしてくるんだろう?」と思ったこともあったそうだ。そうした習慣の違いを知らないと、「あの外国人はあいさつも無視する」と不快に感じてしまったり、反対に、他意なくあいさつしただけなのに「もしかしたら特別な好意を抱かれているのでは」と受け取られてしまったり、お互い誤解が生じるケースも多いのではないかと感じた。そうした誤解を防ぐ意味でも、お互いの文化を知る機会は大事だ。
チェンさんは非常に勉強熱心で、趣味も充実している。向上心を見習いたいと思った。

(*1)外国人技能実習生は原則として転職が認められていないが、新型コロナウイルスの影響により、技能実習の継続が困難となった場合や、実習期間が終了したが帰国が困難となってしまった場合に、転職(再就職)が可能となった。
(*2)日本語能力試験にはN5からN1まで5つのレベルがあるが、N5から難易度が上がっていき、一番難しいのがN1。

ライター/編集者黒部 麻子
1981年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、出版社に勤務。2011年の東日本大震災をきっかけに、翌2012年に岡山県に移住してフリーランスに。取材、執筆、編集のほか、2022年公開のドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」をプロデュース。
1981年東京都生まれ。早稲田大学法学部卒業後、出版社に勤務。2011年の東日本大震災をきっかけに、翌2012年に岡山県に移住してフリーランスに。取材、執筆、編集のほか、2022年公開のドキュメンタリー映画「日本原 牛と人の大地」をプロデュース。
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