マイナンバー制度の混乱について

マイナンバーカードの保険証との一体化に対して反対が相次いでいる。日本で近年繰り返される変化を嫌う世論の一つと思われる。予定通り保険証との一体化をするか、あるいは、それを延期するかはあまり問題ではない。しかし、何らかの不具合があると、変化を嫌い、今までどおりのやり方を変えないとする慣習はやめたほうが良い。

マイナンバー制度の基本をもう一度確認しよう。マイナンバー制度の考え方は、次の3点である。総務省のホームページにはマイナンバーについて次のように記載されている。「マイナンバー制度は行政の効率化、国民の利便性の向上、公平・公正な社会の実現のための社会基盤です。」と。この中で行政の効率化と国民の利便性は、マイナンバーでなくても出来るが、どちらにしても、デジタル的に全国共通のものを作ることによって実現する。これに対して、公平・公正な社会の実現のための社会基盤をつくるのは、マイナンバーでなければならないことは、世界各国の例を出すまでもなく、明らかである。従って、マイナンバー制度の中核は、公平・公正な社会の実現のための社会基盤をつくることを第一の目的としなければならない。決して事務的手続きを便利にするためのツールではないのだ。

本年4月の令和臨調は、「現状の社会保障制度に対して人々が公正さや持続性に疑問や不安を感じている」と問題提起した上で、世代間・世代内の不公平を把握して公正な所得再分配を実現するには、マイナンバー(マイナンバーカードではない)を活用して多様な働き方の報酬を把握する必要があると指摘。社会保険においても、所得や資産の保有状況を反映した「応能負担原則」の強化が、財源の確保や持続可能な社会保障につながると主張した。政府は健康保険証機能など用途の拡充で利用拡大を促しているが、マイナンバー制度で公平公正な社会を作るための決め手である、預貯金口座については、給付金受け取り用途で任意の登録を勧めるに留まっている。デジタル庁によると、マイナンバーの活用で約2500の行政事務で添付書類の省略が可能になるなど効率化が進んでいる一方で、預貯金口座の収支状況をマイナンバーで把握する仕組みは検討されていない。いまだに、給付口座以外は任意の届け出になっている(※2022年3月から、国に対して預貯金口座の情報をマイナンバーとともに登録する「公金受取口座登録制度」が開始されている)。

マイナンバー制度でやるべきことは、金融機関の口座の届出を義務化して、個人の所得の把握、及び資産の把握が簡単に出来るようにすることだ。これに対しての、個人情報を国家が管理することへの反対は、同様に国が管理している社会保障制度への反対と同じようなものなので、金融機関の口座の届出の義務化に反対することは、社会保障制度に反対することと同じとなる(それはありえない)。そして、マイナンバーでの個人情報の誤作動をなくすことに全力を傾けるべきである。再度言えば、健康保険や免許証へのマイナンバーカードの紐付けはどうでも良いし、延期しても一向に構わないが、すべての金融機関口座の届出は早期に義務化すべきである。マイナンバーの3つの視点のうち、行政の効率化や国民の利便性よりも、公平、公正な社会の実現を優先すべきなのである。

「国があなたのために何をしてくれるのかを問うのではなく、あなたが国のために何を成すことができるのかを問うて欲しい。」 ジョン・F・ケネディ

この言葉のように、国家が国民に何かをすることは、国家に対して国民がどのように向き合うかなのである。国民が、自分たちこそが国家を作っている意識を持つことがないなら、近代国家は運営することはできない。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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