2023年7月総務省の発表では、2023年1月1日時点での「日本人」人口は1973年の調査以降初めて全都道府県で前年より減ったようである。年間約80万人(0.64%)の減少だ。それに対して、外国人の人口は過去最多の299万人に増え、経済や社会の担い手として日本を底支えしている。2018年、当時の安倍首相が「政府としては、いわゆる移民政策をとることは考えていない」つまり、日本は移民を受け入れることはないと国会で発言した。それ以来、あるいはそれ以前からすでにそうだったかも知れないが、移民(外国人労働者)の将来像を公的な場で議論することを与野党ともに避けている(手続き的なことについての議論はあるが)。もういい加減に、移民(外国人労働者)を積極的に受け入れるべきかどうかを判断しなくてはいけない。例えば、毎年何人の移民(外国人労働者)を受け入れるのか、その内容(高度人材か単純労働者なのか)についての議論もしっかり行わなければならない。つまり、日本の将来は、現在の経済状況や安全保障環境あるいはマイナンバーなどの些細な問題でなく、人口減に対してどのように対処するのかにかかっているのだ。この議論は、広く深く(長く)行う必要がある。政治家や官僚任せでは成り立たない。一人ひとりの日本人が情報を持ち、意見を表さなければならない。それほど日本の根幹に位置する問題なのである。
対処方法は2つに分類される。当然ながら両極端は議論のためのものであり、実行される政策は、その間の、ある点になるだろう。対処方法の一方の極は、外国人を高度人材のみに制限して、人口減は許容するというものだ。この場合は移民(外国人労働者)の数は10万人以下となるだろう。全体的な日本人の人口減少は毎年60万人から100万人あまりなので、20年後の人口は1000万人から1500万人の減少となる。人口減少は日本の潜在成長率を引き下げる。労働者の減少以外に、平均年齢の上昇のために、投資意欲も減少するので、いくら生産性を上げても、GDPの成長率は良くて0%程度となるだろう。人口減少が少なく、GDPが増加している諸外国に比べ相対的地位が低下する。ただし、国民1人あたりのGDPの減少はそれほどでもなく、せいぜい増加率がやや低下する程度となる。国全体のGDPの低下は、いわゆる国力の低下につながる。国際政治での重みも下がるだろう。これらを享受するなら、移民(外国人労働者)をさほど必要とはしない。この状態での20年後の日本は、第1次産業、第2次産業の生産量が低下し、その結果、農産物の輸入増加、工業製品の輸入増加が起こる。円は大幅に安くなり、イタリアやギリシャのように、観光業や第3次産業が主体となるだろう。ただし、産業構造を大幅に転換し、金融業やITに関連した精密機械などの産業が伸びれば、現在のスイスのような国になる期待もある。
これに対する対極は、人口減少と同等か、やや少ない年間50万人程度の移民(外国人労働者)を受け入れるものである。これは、現在行っている政策の延長線上(年間20万人~30万人の増加)にあるので、あまり大きな政策転換を必要とはしない。問題は、移民(外国人労働者)の増加によって、国民が右傾化し、現在のアメリカや欧州で起こっている政治変化が日本でも起こるおそれがあることである。この状態を回避する必要があるのだ。アメリカや欧州で起こっている移民問題の本質は、治安の悪化などではなく、仕事を移民(外国人労働者)に奪われること(あるいは移民の仕事がないこと)である。アメリカや欧州の移民は、それらの国の人口減少のためというよりも、むしろ、送り出し国の経済悪化や紛争などが増加の原因である。この状態での移民(外国人労働者)の増加は、仕事の奪い合いに至る可能性がある。しかし、日本では、絶対的な人口減少があり、労働力の大幅な低下のために、移民(外国人労働者)に仕事を奪われる可能性は少ないし、移民の仕事がなくなる可能性も少ない。第二極の考え方では、現在と同じような状態を維持することになる。
このような2つの極をもとにした議論が必要である。どちらにしても、年間10万人から100万人の間で移民(外国人労働者)が増加することは確かである。その場合最も大切な点は日本人労働者の下層に、移民(外国人労働者)を据えないようにすることである。移民(外国人労働者)をどのように、日本人と「統合」するかが大切だ。つまり、移民(外国人労働者)を日本の習慣や行動の仕方と同化(assimilation)しようとしたり、移民たちをマイノリティ、周辺者(marginals)に留めるたりするのでなく、社会の成員と認め、言語、労働市場、社会保障、地域生活、教育、等々にわたって統合(integration)していくのかが問われる。その為には、日本社会も変わらないといけない。
移民を同じ人間として認め、異なる民族を統合するためには、同一労働同一賃金の原則を遵守し、日本人と移民(外国人労働者)との間に賃金や労働条件の差をつけないように「強力」に取り締まる必要がある。さらには、社会福祉も日本人と同じように、健康保険、労災保険、失業保険などを適応し、病気や怪我で仕事ができない場合には、生活保障を行わないといかない。絶対やってはいけないのは、日本人労働者の下層に、移民(外国人労働者)を据えることである。このような2重構造は、お互いの敵対心を煽り、多様性の構築を難しくする。移民(外国人労働者)が日本人労働者と同等の権利を持つようにすれば、現在の日本の多様性の欠如による停滞と、甚だしい労働者不足とを同時に解決することが出来るかもしれない。その為には、国の大きな責任と関与が必要となるのである。はたして日本政府にこのような覚悟があるだろうか?
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