少子化が進んで、年間の出生数が80万人を切ると、弾かれたように政府は少子化対策に乗り出している。以前の推測では、出生数が80万人を切ると予想されたのは2032年頃だったので、予想よりも10年早いことになる。そうは言っても、出生数を減少させない対策は、2000年頃から頻回に立てられてきた。しかし、そのような対策にも関わらず出生数は減少し続けている。岸田内閣の言う「異次元の少子化対策」は、過去何回も対策が立てられ、失敗に終わったので、「異次元」になるのだろうが、成功する可能性は低い。しかし、なぜ政府が少子化対策を行うのだろうか? 出生数が減少すると、日本の人口が減る。その結果、経済力が低下する。だから少子化は避けるべきだ、との考えだろうか? しかし、あいにく、現在少子化対策を行っても、当面の人口減少は避けることが出来ない。従って、潜在成長率が対策によって上向くことはない。出産期の女性人口は、今後20年間にわたり低下することが分かっているからだ。
上図のピンクの網掛け部分(20才から40才まで)は、現在出産年齢の女性だ。この世代は年齢ごとに60万人(20才程度)から75万人程度(40才ぐらい)である。これに対して、今から20年後に出産年齢を迎える、ピンクの網掛け以下の1才から20才の女性は、年齢ごとに40万人(1才)から60万人(20才)に減少する。数から言えば、現在平均的出産年齢を迎えた女性の60%-70%程度の人数になる。出産する女性の出生率(合計特殊出生率)は現在1.3程度のため、子供の数を現在と同じようにするためには、出生率(合計特殊出生率)を1.8-2.2に引き上げなければならない。これは不可能だ。従って、子供の数は現在よりも増えることはなく、むしろ減少するだろう。
つまり、少子化対策を行って経済の向上や国力の低下を防ぐ意味は少なく、少子化対策は経済的理由でなく、社会福祉的観点から行わなければならないのだ。国連人口基金(UNFPA)も本年4月19日、2023年の世界人口白書において、出生率のみを問題にする政策に対して警鐘をならす。以下は日経新聞からの記事の要約である。
「UNFPAは、人口が減少に転じる国もあるなか、出生率を政策で操作しようとする国が増えており、女性に悪影響が及ぶと懸念を示した。出生率にこだわらず、男女平等で社会や経済の発展を目指すべきだと提言した。」
「白書は、手厚い支援で一時的に出生を増やしても、出産のタイミングが早まるだけで、長期的な効果は乏しいとの研究を紹介した。出生率に影響を与えようとする政策をとらない国のほうが、人間の自由度指数が高い傾向があるとも分析した。出生率目標を掲げた政策を実施することで、子供をもうけるかどうかや、何人もうけるかといった、人々の判断の自由や権利を損なう恐れがあるとの見解を示した。」
「他方、出生率が低い国は、職場の男女不平等、家庭における男女不平等、共働き家族への支援の欠如という三位一体がみられると、韓国や日本の実情を紹介した。子供を持つことへのインセンティブ強化から、女性の活躍促進に政策の力点を移せば、人権面だけでなく経済的な利益もあると強調し、女性が、子育てとキャリアとを両立できれば、生産性向上や将来世代へ好影響があるとの主張も盛り込んだ。出生率目標で人口そのものを増やそうとするよりも、女性や移民の活躍促進で経済や社会の活力を保つべきだとの立場だ。」
上記の記事のように、多くの国で、出生率低下に伴う人口減に直面しているが、積極的な出生率増加対策は失敗している。むしろ、国連人口基金(UNFPA)は、出生率そのものを問題にするよりも、女性の権利を保護して、職場の男女不平等(同一労働同一賃金の不徹底)、家庭における男女不平等(男性と女性の育児時間の差、家事の分担など)、共働き家族への支援の欠如(保育所への入所制限や学童保育所などの不足)という問題を解消し、女性が活躍できるような社会を作ることのほうが大切であると述べている。
子ども予算を増やすことは必要かもしれないが、それは社会保障全体から考え行わなければならない。他の必要な資金を子ども予算に転用することは行うべきではない。そして、目標を出生率でなく、女性の権利保護に置く必要があるのだ。
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