同一労働同一賃金の原則を明らかにした「パートタイム・有期雇用労働法」が、大企業では2020年4月から、中小企業でも2021年4月から適用されている。同一労働同一賃金の原則は、「同じ労働をしている場合は、同じ給与を支払わなければならない」という、極めて単純な原則を示したものだ。では、なぜこの様な原則をわざわざ言わなければならないのか? それは、雇用形態(正規、非正規の違い)、あるいは男女の違いによって、「同じ労働をしている場合も、同じ給与を支払わない場合がある」からだと言えるし、むしろそのほうが圧倒的に多いからである。例えば、スーパーマーケットで売り場のマネジメントの仕事(商品の仕入れ、配列、売上管理など)をしている人たちの間で、雇用形態の違い(正社員か非正社員か)や、男女の違いによって給与が違うのは、同一労働同一賃金の原則に従えば、ルール違反である。この場合給与の比較は、月給、年俸給などの給与支払い方法の違いを比較するために、それぞれを「時間給」に換算して検討すべきだ。そして、結果的に同じ仕事で給与が違う場合には、企業がその理由を明らかにする必要がある。この単純な原則が今まで守られて来なかった。
日経新聞によると、総合スーパーのイオンリテールは、このほど同一労働同一賃金の原則を導入したようである。月120時間以上働き、昇格試験に合格したパート社員(正社員と同じ仕事をすると考えられる)を正社員と同じ待遇とする。注目すべきは、地域限定正社員の基本給や手当を、所定労働時間(月160時間)で割って1時間あたりの金額を算出し(つまり時間給に換算する)、この時間給をパート社員の時間給と見なし、労働時間に応じて給与を支給するというものだ。イオンリテールが昨年秋に実施した昇格試験ではパート88人が受験し、売り場責任者を務める42人が合格した。今後は年間400人程度の登用を想定している。
歓迎すべき給与改定である。今まで賞与や手当など、本筋でない部分のつじつま合わせでの同一労働同一賃金らしきものは行われているが、給与の本体に対して、それも時間給単位での正社員と非正規社員との比較を行い、その給与を同じにすることは、ほとんど行われていなかった。イオンのような巨大組織が、少数からとは言え、同一労働同一賃金の原則を守った給与改定を行ったことは大きな改革といえる。
2021年の国内の非正規雇用者は2075万人で、役員を除く雇用者のうちの37%を占めるようになった。正規と非正規の待遇格差を解消する「同一労働同一賃金」が求められているが、未だにその是正が行われていない。厚生労働省等の調査でも、同じ労働を行っている正規労働者と非正規労働者の時間給での差異は、下図で示されるように、非正規労働者が正規労働者よりも40-50%少ないという集計がある。
厚生労働省資料
それに加えて、パート社員の給与絶対額の低さがある。現行のパート社員相当時間給1000円で賞与がないときには、労働時間が月160時間の場合は月給が16万円、年俸が192万円という低い基準となる。この様な職務が日本に現存している事自体が異様である。従って、最低賃金の引き上げも現実感が持てるだろう。現在の最低賃金は961円だが、この最低賃金を1200円、あるいは、さらに1500円に引き上げると、時給1500円の場合、月給で24万円、年俸で288万円となる。この程度が、労働に見合う給与ではないか。この給与に沿った、小売価格が求められるのである。政府は給与に直接関与しなくても、最低賃金を引き上げるという、正当な権利を付与するだけで、給与の引き上げを図ることが出来るのである。
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