潜入レポ!介護の現場から 第13話 「認知症差別‐後編‐」

認知症の勉強会に初めて参加をした。施設での勉強会は今日が2回目で、1回目の資料も頂いた。認知症の原因となる病気の代表的なものが、アルツハイマー病であること、認知症で見られる症状は、中核症状※1と周辺症状※2に分けて考えると理解しやすいことなどを学んだ。

ただ、認知症差別については触れていない。


糖尿病や心臓病と同じ「病」であるのに、アルツハイマー病患者は幼児のような扱いを受けている。308号室の朝山様への声掛けの仕方や関わり方を見ていると「差別」をしている意識もなく、気づかないままに差別していると感じる。当たり前の感情を持っている同じ人間であり、況してやいくつも年上の方である。
また山田様のように、何もできない人・分からない人だと勝手に思い込んで、差別していることもあると思うと、認知症差別は結構根深い問題だ。

早々に山田様に会いに行く。

「わたしのことを何もできない子供と思っているのよ」と感じた時のお気持ちを聞いてみた。

「優しい口調だし悪気はないと思うからいいのだけれど。やっぱりここに居る以上、私の方が立場が下なので、何でも従わないといけないのかと思ってしまうわ。。。ちょっと悔しい。。。」

このような感情は当たり前だと思う。このように感じていらっしゃることが分かったからには、増野リーダーにこの疑問をぶつけてみよう。そしてぜひ勉強会で取り入れてもらおう!

増野リーダーに話をしてみた。

「そうね。池田さんの言う通りね。私も認知症がどんなものかという研修は受けてきたけれど、差別についてはちゃんと聞いたことはなかったわ。私の勉強会でも何も考えず、このことに触れることが無かったのは反省しなくちゃね」「でも、みんな悪気は無いし、むしろ親しみやすくなると思っているはずだから説明が大変だわ」

「あの・・・山田様に話してもらったらどうでしょう。悔しいと思われた気持ちを直接話してもらうのはどうでしょう」

増野リーダーはさすがに驚いた表情である。

そしてもうひとつ。朝山様と話した時に感じたのだが、いつも大きな声を出されるわけではなく、何かきっかけがあるように思う。そしてそれは人それぞれなので、個別に探らなければならない。勉強会では個別のきっかけを探ることもしてもらえないかを、増野リーダーに頼んでみた。「そのことは山田様のコールが減ったことで私も考えたわ。難しそうだけどこれはやるしかないわね。これにチャレンジすれば現場が良くなるはずよね。でも山田様に話をして頂くかどうかは少し考えさせて」

※1
中核症状:脳の神経細胞が壊れることが直接的な原因で生じるもの。記憶障害、見当識障害、失語、失認、実行機能障害など

※2
周辺症状:中核症状に由来する症状。徘徊や暴言・暴力などの陽性症状と意欲減退や抑うつ状態などの陰性症状に分かれる。

 

 

 

潜入レポ!介護の現場から」全体像
*介護施設にパート職員として潜入した池田出水。そこで見聞きしたことから現場の問題を表現していく。職員の様子・入居者や家族の様子・ケアの状況・往診医や、時には受診の付き添いなどでの病院の様子など、レポートは多岐にわたる。

*登場人物
介護の現場体験者:池田出水
介護施設にパート(月曜~金曜の11時~15時)として入社。頻回コールで職員の中では問題になっている入居者山田様の部屋を、仕事終わりに訪ねて、話をするようになる。コールは物忘れをする不安が一因にあると分かり対策を打ち出す。また、夜間職員にベッドを蹴られるという事実も判明した。
さらに、山田様との話の中で身体拘束を疑い、夜間の様子を何としても知りたくなり、入社2ヶ月が近づく頃、夜勤(月に2回)をすることに決めた。身体拘束は山田様が以前居た施設でのことと分かり、山田様は過去のトラウマに悩まされ、そのことがコールの一因でもあったことが分かった。
入社2ヶ月を過ぎ、山田様との会話の中から認知症に対する差別があるのではと感じ、認知症の勉強に意欲も燃やす。

 

施設責任者(施設長):渡辺
 日々、忙しそうで相談事ができる様子はない。

パートの先輩:大村
 目の前の仕事をこなすことで精いっぱい。面倒なことには巻き込まれたくない??

常勤ヘルパー(リーダー):若林
 ぶっきらぼうで怒りっぽい。しかし自分の間違いは素直に認め、向上心も持っている。

共感してくれる職員(もう一人のリーダー):増野
 池田出水の行動をよく見ており、いつも冷静で公平な判断をしていて正義感が強い。

虐待疑惑職員:吉田(辞職している)

202号入居者:山田様
 頻回にコールを押され職員間では問題となっている。

202号室入居者家族:娘
203号室入居者
308号室入居者:朝山様
106号室入居者:岩井様
常勤職員
往診医

ペンネーム池田 出水
「これからの日本には介護サービス業界こそが必要!これぞ社会の根幹!」と考え、それを支えるべくこの業界に飛び込む。
昨今の介護サービスの現状を憂う大和撫子。
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