日本の年間出生数は、2022年において、ついに80万人を切ることになった。それにもかかわらず国を維持していくためには、一定の経済力を持つ必要がある。指標として参照するのは、一人あたりのGDPだ。北欧諸国やオランダは、小国(人口500万から1500万人)ではあるが、高い生産性を維持して、一人あたりのGDPも高い。日本は大国(人口12600万人)であり、これらの国と比較することは難しいが、それでも、現状を打破するために、仕組みを学ぶことはできる。その一つが、フレキシキュリティ(flexicurity)だ。フレキシキュリティは資本主義の発展形として生まれた福祉国家における積極的労働市場政策である。1990年代にデンマーク首相ポール・ニューロップ・ラスムセンにより、柔軟性を意味するフレキシビリティ(flexibility)と安全を意味するセキュリティ(security)を組み合わせた造語として作られた。労働市場の柔軟性と、労働者保護の二つを組み合わせた政策を指す。
労働市場の規制は緩和しすぎてしまうと、企業に有利となり、雇用調整が容易に出来るようになって、景気が悪化したとき、失業率が大幅に高まることになる。アメリカがこの例である。しかし、反対に、規制を強くして、労働者保護ばかりに重点を置いてしまうと、経営の悪化や労働者のモチベーション低下、ひいては成長産業への労働者の移動が妨げられ、生産性の停滞を招くことになるだろう。日本の状態がこれに当たる。従って、労働市場の柔軟性を保つ方法としての解雇規制の柔軟化と、失業給付の拡充を組み合わせる必要がある。解雇規制の柔軟化は、企業側に従業員の安易な解雇を促す仕組みではなく、同時に行う手厚い失業補償の給付により、従業員が安心して、次の職場を探すことを出来るようにするものだ。
解雇規制の緩和には、解雇の金銭解決制度を導入すべきだろう。解雇に際しての補償額が高いと、企業は簡単に解雇をしなくなる。今でも日本の中小企業は、補償金なしの解雇を行う例があり、理不尽な解雇の歯止めとしての効果も期待できる。フレキシキュリティ制度を行っているデンマークでは、解雇に際し、給与の1ヶ月分から3ヶ月分を支払う事になっている。さらに、妥当な理由がなく解雇する場合は、給与の3ヶ月から6ヶ月分を支給する。この制度によって、雇用に伴う訴訟件数は大幅に低下した。一方で、解雇規制緩和と失業補償とは一体である。デンマークでは、失業保険が最長3年間、賃金の90%まで支給される(日本では1年間で、賃金の約70%程度)。解雇規制の柔軟化と失業補償の充実がデンマークのフレキシキュリティ制度の要点である。また、失業補償を実効性があるものにするために、失業者向けの教育訓練制度が必要である。原則として、働くことが出来る人たちには、教育訓練制度は失業補償を受け取れる条件とする。
問題は、この教育訓練制度である。日本で失業者向けの専門実践教育訓練指定講座を受けるとしても、その終了後、企業が採用してくれるかどうか、あるいは、より良い職種につけるかどうかがわからない。教育訓練制度を価値あるものとする為には、教育訓練の内容を常に実践的なものとすることに加えて、企業がジョブ型雇用を選択している前提が必要だ。ジョブ型雇用とは、一つの仕事を分解し、仕事が完結するためには、どのようなパーツで成り立つのか、仕事の構成を認識することである。そして、不足する部分に相当する労働者を、労働市場から調達することが出来る仕組みでもある。
パート・アルバイト市場では、すでにジョブ型雇用が行われている。どの様な仕事がいつ必要であることを前提として雇用が行われる。介護労働市場でも、大部分が中途採用であり、部分的に仕事を切り分けることが出来る。しかし、新卒一括採用のような、いわゆるメンバーシップ雇用を行っている企業は、まず人を採用し、あとから仕事を割り振るので、ジョブ型雇用とは言えない。ジョブ型雇用は、多くの企業が行い、労働市場がジョブ型で出来上がったとき初めて円滑に施行できる。なぜなら、不足する部分的労働をはっきりと企業が認識しても、それを調達する労働市場がないとジョブ型雇用は成立しないのだ。どちらが先かの問題だが、同時に進行させるしか方法はないだろう。教育訓練制度はその後(ジョブ型雇用が定着した後に)有効性を発揮する。フレキシキュリティはジョブ型雇用と一心同体とも言える。そうすることによって、日本で転職が日常的に行われる、フレキシキュリティの世界が見えてくるのだ。その結果、成長戦略も開けてくるのである。
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