以前このOpinionsで、賃金が上がらない理由を、チャールズ・グッドハート等の分析によると次のようなものだと述べた。第一は、世界的グローバリゼーションの拡大による生産(工場)の海外移転が可能になったこと、第二に就労形態の変化による賃金の不均等(非正規社員の増加)が生じたこと、第三に労働参加率(労働力率)の上昇、つまり、女性と高齢者の低賃金での労働参加によって不足する労働人口を補ったことをあげた。
現在は、第一の要因である、グローバリゼーションの逆戻りが起こり、海外への生産移転は以前のように簡単ではない。第二の要因の就業形態の変更に伴う賃金の歪みを是正するための「同一労働同一賃金」の決まりは、2021年から実施されている「はずである」。しかし誰も「同一労働同一賃金」の原則が決められたことを知らないし、問題が起こっている事自体も知らない。第三の女性と高齢者の労働参加については、非正規労働を含めても限界に近づいている。女性の労働参加率は欧米と同じ水準となり、75%を超えている。
2022年からは意外にも、インフレ傾向が続いている。このインフレは、安倍内閣・日銀が想定したものでなく、いわゆるコストプッシュインフレで、エネルギーや資源価格の上昇によるものだ。従って、古典的なインフレ対策、つまり、金利を上げて需要を抑制するような対応は取りにくい。一方、インフレによって実質賃金は低下しているので、賃金を引き上げる必要性は高まっている。しかし、日本では、賃金の引き上げは、政府や経団連が主導しているように思われる。この傾向は、労働側からの要求というよりも、政治の都合によって、あるいは、経営者が横並び主義で引き上げている、もしくは海外人材との整合性を取るために引き上げるようである。しかし、どこかおかしいのではないか?
物価の上昇によって生活が苦しくなったときに、労働者の要求は最も強くなる。そして、その要求が十分に受け入れられない場合は、「ストライキ」という手段が取られる。事実諸外国では、インフレが増大するとともに、労働者のストライキが頻発しているようだ。本来、労働側の要求があり、その要求に対して経営側が「部分的」に答え、その交渉が労働側の「ストライキ」という強力な手段によって促進されることが通常の労使交渉である。
今野春貴氏による
データブック 国際労働比較2022より
日本で、近年なぜこの様な事態、つまり、労働側のストライキが起こらないのだろうか? 「今野晴貴-ストライキ2.0」によると、次のような指摘がある。第一に、日本では労働組合が企業別組合なので、一致した行動が取りにくく、企業の経営側との癒着が起きやすいこと。第二に、組合が既存の正規労働者を重視し、増加している非正規労働者を軽視したこと。第三に、労働側が社会的正義、つまり、過剰労働、転勤、配置転換や非正規労働の低賃金などをあまり訴えなかったこと、等である。
ストライキがない社会は、一見平穏で、調和的な社会だと考えられる。しかし、不平等は依然としてあるし、インフレによって低所得者の生活は更に苦しくなっている。欧米に比べて日本でのストライキが極端に少ないのは、労働者にとって、生活の苦労がないわけではなく、抵抗する気力がなくなっているのではないか。そこで、労働組合に必要なものが問われるのである。それは、従来の賃上げ一辺倒の運動でなく、社会性を持った運動であるはずだ。
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