終末期を考える-「人生七掛け論の勧め」

現在、わが国では65歳以上を高齢者としており、そのうちの65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と定義してあります。私は今年の誕生日で70歳を迎えることになりますが、「まだ前期だ」と自分を慰め、同時に励ましてもいます。ところで、若い頃に抱いていた70歳のイメージと、現在の自分との間に大いなるギャップを感じています。もっとも、周りから観たらどうかは別にしてということではありますが、血気盛んな若い頃には、自分が70歳になることなど考えてもいなかったというのが本音でした。しかし、実際になってみて、そこが若い頃に想っていた場所かというと、けっこう違っていることが多いと気付かされることになっています。
少し調べてみると、2022年の統計では65歳以上は3627万人で総人口の29.1%、実に3人に1人が高齢者になろうとしていることがわかりました。今年で古希を迎える自分はどうかと70歳以上を見てみると2872万人、総人口の23.0%、そろそろ4人に1人という状況になっています。(ちなみに、後期高齢者とされる75歳以上は1937万で15.5%でした。)

ここで改めて想うことがあります。昔から言われていた年齢にまつわる節目の年齢に関して、(たとえ、それが政治的な意図があって言われ出したにせよ)人生100年時代と言われる現在では、ギャップというより誤差が生じてきているのではないかということです。私がなろうとしている70歳は、古来より稀ということで「古希」として祝ってもらえるようですが、4人に1人がそうなろうとしている現代では、「古来より稀」というのはちょっと当たらないのではないかと想うことになってきます。

さて、ここからが本論ですが、こうした昔からの年齢に対する捉え方と現代の年齢感覚のギャップを埋める手立てはないかと考えたのが、表題の「七かけ論」です。「七」と言っても、実際には「0.7」なのですが、この「0.7」を使って、昔と現代の年齢のギャップを埋めようというのが今回の「お勧め」です。
先ずは私が絡む70歳から。70歳を0.7で割ってみると100歳となります。2022年の統計では100歳以上の人口は約9万人、総人口の0.1%ということですが、これなら「古来より稀」な長寿と言っても良いのではないでしょうか(ただ、100歳を古希とすると、「人生100年」と言うのは少し厳しいかも、ですね)。この論を進めていくと、男の厄年の42歳も、現代ではまだまだ元気な盛りでしょうが、0.7で割ると60歳となり、現実的に身体に調子の悪いところが出てくる年頃として、「厄年」と言っても良いのではないでしょうか。


こうして考えていくと、昔の侍が元服とされた15歳(資料によると12~17歳と幅があったようです)を0.7で割ると21.4歳となり、現代での成人の年齢に相当することになります。逆に、現代の成人とされる20歳※を0.7で割ると28.6歳となり、(個人的意見ですが)現代の若者たちが現実的に自立する年齢になりそうではあります。

※最近は若い世代が減少し、投票数が減るといった政治的意図からか、2022年4月1日から民法改正で成人年齢を18歳に引き下げられてはいますが、そもそも、これまでの「成人は20歳」とした根拠は何なのか気になってきました。成人年齢は民法で定められているようですが、これまでの満20歳とされた現行の民法は明治29(1896)年に制定されたとありました(そうすると、今回の改正は実に126年ぶりとなりますが、日本の法律は医師法(昭和23年)もそうですが、意外と古いままのものが多いようですね)。ただ、その「20歳」とした大元は、明治9(1876)年の「太政官布告第41号」から始まっていると分かりました。さらに調べていくと、現行民法の起草者の梅兼次郎博士の著書が挙げられてはいますが、「20歳とするのが、適当だろう」とされているだけで、これ以上の「何故成人は満20歳か」という疑問への腑に落ちる答えは見つけられませんでした。どなたかご存じないでしょうかね。

この「七かけ論」の良い所は、この0.7を逆に実年齢にかけることで、誰に気兼ねすることもなく若返ることができることです。今の自分なら49歳となり、若返った気分でやる気が出てくるということになります。ところで、2022年の男性の平均寿命は81.47歳とありましたが、0.7で割ると116.4歳となり、この「七かけ論」では「人生は110年」の時代に入れそうです。翻って、「七かけ論」で心身ともに若く保っていけば、実年齢で考えても「人生100年時代」を実現できるのではないでしょうか。
こうして数字遊びをしていると、まだまだ先は長そうで、「終末期」は少し先送りしてよさそうです。さらには、目の前の年齢を楽しむ余裕が出てくるのではないでしょうか。これからは「健康を維持した終末期」もあっていいのかもしれません。むしろ、発想を転換して「終末期」を「人生の収穫期」として捉え直すことも必要になってくるのかもしれませんね。
皆さんの実感年齢はいくつになるのでしょうか。一度試してみてはいかがですか。

医療法人 寺田病院 院長板野 聡
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「貴方の最期、看取ります」(電子書籍/POD 22世紀アート)、「医局で一休み 上・下巻」(電子書籍/POD 22世紀アート)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
1979年大阪医科大学を卒業後、同年4月に岡山大学第一外科に入局。
専門は、消化器外科、消化器内視鏡。
現在の寺田病院には、1987年から勤務し、2007年から現職に。
著書に、「星になった少女」(文芸社)、「伊達の警察医日記」(文芸社)、「貴方の最期、看取ります」(電子書籍/POD 22世紀アート)、「医局で一休み 上・下巻」(電子書籍/POD 22世紀アート)。
資格は、日本外科学会指導医、日本消化器外科学会指導医、がん治療認定医、三重県警察医、ほか。
  • 社会福祉法人敬友会 理事長、医学博士 橋本 俊明の記事一覧
  • ゲストライターの記事一覧
  • インタビューの記事一覧

Recently Popular最近よく読まれている記事

もっと記事を見る

Writer ライター