変化を受け入れ生きていくこと

世界は常に変化する。一定にとどまることはない。川は一定の状態であるようだが、そこにある水は常に入れ変わっている。同様に、昨日の自分と今日の自分とは細胞レベルで大きく変わっていて決して同じでない。変化することが必然であるとすれば、変化に合わせて生きていくか、変化から超越するかを考えなければならない。変化についていこうとすれば、常に自己変革を必要とする。自分で変わるというより、冷静に世の中を見たり、自分の内面を観察すると、自分自身が自然に変化することを許容したり、変化することを止めることができないのである。一方で、変化から超越することは非常に難しい。

保守的な国になっている現在の日本は変化を嫌う。すべてのことが今まで通りであることを期待し、変化していることを理解したがらない。マスメディアは、時事ネタになる事件は好むが、変化することは嫌いであるため、昔ながらの習慣や風習を守ることは人気がある。この原因は言うまでもなく高齢化による平均年齢の上昇だ。変化するためには努力やエネルギーを必要とするが、変化しない場合は必要ない。一般的な若者は変化のエネルギーを蓄えているが、年をとるとエネルギーを維持することは難しい。

熱力学第二法則は、エントロピーの法則※である。秩序だったものは、必然的に無秩序に向かい常に変化している。整然とした部屋は、次第に乱雑になるし、最初ははっきりとしていた仕事の分類も、時がたつと次第に曖昧になる。規則も最初は守られているが、次第にルーズになる。物自体も次第に劣化して機能が低下する。制度は次第に抜け穴が多くなり、本来の理念から外れることが多い。この様な熱力学第二法則つまりエントロピーの法則に従えば、世界は一定に留まることはなく、エントロピーの増大するように常に変化しているので、人間はこれに対応しなければならない。エントロピーが増加しないように(乱雑を避け秩序を保つように)しようと思えば、膨大なエネルギーを注入する必要がある。これも、熱力学第二法則である。つまり、部屋をきれいに保つ為には常に整理整頓のエネルギーを注入することが必要だし、生きて行くためには、食物や住まい、そして衣服などを、エネルギーによって生み出す必要がある。つまり、人間が生きていくためには、変化することと、エネルギーの注入とが必要となるのだ。

一神教(キリスト教、イスラム教など)は、絶対者を前提として、それに関する物語を作り上げている。神が世界をどの様に作ったのか、そして、人々が神にどの様に仕えたのかなどの物語だ。このような宗教神話は変化を嫌う。結果的にこれら神話は、科学の進歩によってつじつまが合わなくなり、矛盾が多くなっている。ガリレオの天動説や、ダーウィンの進化論などがそうである。古典的な宗教が作られたのは今から1500年から2000年以上前のことであり、矛盾は当然生じる。

哲学の分野でも、大きな物語(プラトンのイディア論など)は次第に縮小している。世界は変化しているし、それを考える自分も変化している事が前提となるのだ。従って、一定の時点を停止させ、人間すべてに共通する考えを生み出すことは出来ない。その代りに必要なのは、すべてが変化することを前提とし、理解しなければならないことだ。すべてが変化し、変化を促す法則も変わっている。それを感じる自分自身も変化していることを実感することが必要だ。

しかし、人間は世界の変化に何もしないで流されるような存在ではない。変化を認識することは、世界と自分自身が変わることを普通の事として受け入れることである。例えば他人が自分に対して態度が変わったのは、他人自体が常に変化しているので、考えが変わるかもしれないし、事情が変わるかもしれないことを当然のこととして受け入れる必要がある。それ以上に他人を評価する自分自身が気付かないうちに変わっている可能性もあるのだ。この様な変化を前提として、その上で、自分自身が努力をすることが大切だ。この際注意することは、自分自身を固定して、世界が変化していると思うことではなく、自分自身も変化していることを認識すること、さらには、自分自身の孤立を前提として、自分自身で考え、解決しようとする心が必要だ。その為には、目標や世間の常識をあまり大きく考えず、現実に起こっていることに目を向けることが重要である。

現在の日本では、他人や社会に合わせた生き方が求められているが、いつかはその反対に、自分自身の自立が前提となり、そのため他者と協調する必要性が下がることになるかも知れない。一方で、政府は、社会が常に変化する事を前提として、変化から取り残される人たちを支える仕組みを持つことが重要である。社会の固定化を目指すのでなく、社会は常に変化することが前提であり、その中で救済すべきは個人であり、企業や団体に対しては変化を求めることが必要だ。

※エントロピーの法則;「無秩序の度合いを示す物理量」。具体例で言うと「部屋が片付いている状態」(秩序ある状態)→エントロピーが小さい「部屋が散らかっている状態」(無秩序な状態)→エントロピーが大きいということ。つまり、無秩序であればあるほどエントロピーの値は大きくなる。

公益財団法人橋本財団 理事長、医学博士橋本 俊明
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
1973年岡山大学医学部卒業。公益財団法人橋本財団 理事長。社会福祉法人敬友会 理事長。特定医療法人自由会 理事長。専門は、高齢者の住まい、高齢者ケア、老年医療問題など。その他、独自の視点で幅広く社会問題を探る。
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