2020年1月以降、日本政府は、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う水際対策として入国制限を行ってきました。そのため、日本語学校で日本語教育を受け大学等に進学し将来を考える外国人留学生や企業で実践的な技能や知識を学ぶ外国人技能実習生、日本でのツーリズムを楽しみにしていた外国人観光客等の訪日外客は、来日することが叶いませんでした。そして、ようやく2022年からは、1日の入国者上限数や入国時の検査等の条件を設けながらも、長らく続いた入国制限が緩和されて訪日外客の来日が可能となったのです。
日本政府は、2022年3月1日から入国者上限数を3,500人から5,000人へ、14日には7,000人に引き上げ、観光目的以外の外国人留学生や外国人技能実習生等の新規入国を可能としました。その後、4月10日に1日の入国者上限数を7,000人から10,000人へ、6月1日には10,000人から20,000人に引き上げました。3月末から2カ月間は、中国の新型コロナウイルス感染症拡大に伴って上海ロックダウンによる生産や物流等の停止が散見されました。しかしながら、5月中旬に、知り合いの都内の日本語学校に訪問してみると、「一部入国遅れがあったものの無事に入国できました」「上海ロックダウン前に入国できました」等の4月生の新入生が入国できたという数年ぶりの大変喜ばしい受入れ状況を日本語教師の先生から聞くことができました。また、その後の9月上旬に、改めて日本語学校に訪問してみると、「7月生も問題なく入国できました」「10月生もこれらから入国予定です」等のコロナ禍前のような日本語学校の受入れ状況に戻りつつある現況を日本語教師の先生に教えてもらいました。
入国制限の緩和によって来日が可能になったのは、上で見たような外国人留学生や外国人技能実習生だけではありません。日本政府は、6月10日から添乗員を伴うツアーによる外国人観光客に限定して観光目的の新規入国も可能としました。その後、日本政府は、9月7日から1日の入国者上限数を20,000人から50,000人に引き上げ、添乗員を伴わないツアーによる外国人観光客の観光目的の新規入国を可能とし、10月11日から1日の入国者上限数を撤廃し、訪日外国人観光客の個人旅行を解禁しました。訪日外国人観光客の個人旅行が解禁され、職場のある渋谷界隈を歩いていると、コロナ禍以前のように、個人旅行で来日した訪日外国人観光客が大きなキャリーケースを転がしながら観光地図を渋谷駅前で確認する様子やツアーで来日した訪日外国人観光客がスクランブル交差点やハチ公前で記念写真を撮る光景、ムスリムの方が飲食店の前でハラルに対応した英語で表記されたメニューを確認する姿、日本人にも人気のあるラ-メン店内で運ばれてきたラーメンの写真を撮る姿やラーメンの味に感動し「ハオチー」「デリシャス」といった声も聞くようになりました。
2022年から外国人留学生や外国人技能実習生、外国人観光客等の訪日外客が来日できるようになり、大学での留学生教育現場においてインバウンド需要の回復を身近に感じるようになりました。私は、外国人留学生を対象とした就職支援を行う3年次の専門ゼミを開講しています。専門ゼミに所属する外国人留学生の大半は、大学卒業後に日本で就職することを希望しており、コロナ禍でどのような仕事のニーズがあるのか等の質問を受けることがあります。そのため、私は、日頃から外国人留学生向けの複数の就職情報サイトを閲覧し、外国人留学生にどのような仕事のニーズがあるか等を確認するようにしています。
表1に示されるように、入国制限の緩和に伴ってインバウンド需要に対応したコロナ禍前にも確認できた外国人留学生の新卒採用の求人が散見されるようになりました。もちろん、インバウンド需要の回復を実感するのは、外国人留学生の新卒採用の求人だけではありません。他にも、大学で留学生教育に携わり教え子たちから見聞することがあります。例えば、ベトナム人留学生の教え子からは「年末に久しぶりに飲食店で忘年会をした」、帰国したベトナム人留学生の卒業生の教え子からは「2023年3月に日本に旅行へ行く予定です」、中国人留学生の卒業生の教え子からは「年末年始は静岡に温泉旅行に行った」等と教えてもらいました。また、ネパール人留学生の卒業生の教え子と東京・新大久保の同邦が経営するネパール食材店に出向いてみると同邦で賑わう店内でマサラ(香辛料)やパ二プリ(ネパールのお菓子)、ワイワイ(ネパールのインスタントラーメン)を購入する様子が散見され、中国人留学生の卒業生の教え子と東京・池袋北口の同邦が経営する中国料理店に出向いてみると店内は多くの同邦の経営者が集い、中国語で日本でのビジネスの近況を語り合う光景がありました。
このように、外国人留学生の求人や見聞すること等からは、インバウンド需要の回復を実感します。訪日外客が来日できるということは、インバウンド需要に支えられている企業に恩恵があるだけではなく、在留外国人の雇用を創造し、雇用された在留外国人が企業を支え、その企業が訪日外客へのサービスに向上に努め、新規・リピーターを含む訪日外客に日本を選んでもらうといった日本経済としての好循環を模索できるようになります。コロナ禍前の訪日外客数の水準に戻るには、もうしばらく時間を要します。今後、日本政府は、現況の入国時の検査等の条件をどのように見直すか等の議論を踏まえた後に2023年には前述した好循環を加速させることが大切です。
(参考文献)
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