高齢者が支えるサスティナブルな街づくり-地域活性化のひとつの道しるべ

高齢化社会を迎える日本にあって、地域の活性化が重要課題の一つであることは言うまでもない。特に都心と違い地方においては高齢化、人口減少がそのまま公共交通手段の削減等移動制約に繋がり、人の移動の減少が地方経済の停滞を引き起こし、更なる制約へと負のスパイラルを繰り返す状況が目に見えてきているのが現状である。
それは、所謂地方の公共交通が廃止された過疎地域のみに起こる問題ではなく、日本のどこにでもある地方都市の限られたエリアや、開発から時間が経ったニュータウンと言ったごくありふれた地域でも、残念ながら起こりえる問題である。
この課題の解決策の一つとして数年前からMaas(Mobility as a service)と言うキーワードと共に、様々な実証実験やサービス展開が公共交通事業者、ITサービス事業者、各種自治体等により図られてきた。実際のところ、国土交通省が進める地域の足としての自家用有償運送の認可団体数は、全国で市町村運営が440団体、NPO等で116団体(2018年3月時点)に上っている。

そう言った世の中の流れの中で、今回私が関わったNPOによる地域に根差したモビリティサービス(所謂ボランティアタクシー)の立上げについて、地域の活性化施策の一つの解として紹介したい。住民主体型で地域の課題に取り組み、知恵と工夫と地道な努力を積み重ねながら、「今より少し良くなる」サービスを実現しようとするこの活動は、高齢化社会を迎える日本において、是非とも取り組みたい試みのひとつであろう。また、地域のNPOが主体となり、独立採算で行う自家用有償旅客運送(ボランティアタクシー)の事例は全国でも珍しく、他の同様の課題を抱える地域でも大いに参考になるものと考える。

今回紹介する地域は、関西私鉄沿線の人口7万人弱で高齢化率も32%という典型的な地方都市の中の、各駅停車しか停まらない駅そばに広がる丘陵宅地である。地域の居住者は約12,000人、世帯数も約5,400と市人口の約17%を占める地区である。高度経済成長期に大規模開発を始め、当初は大阪・京都にも30~40分程度の近さと、丘陵からの眺めも格別な土地に多くの住民が居を構えたが、ご多分に漏れず住民の高齢化に伴い、逆にその高低差が移動の足を奪う結果となってしまっている。

以前よりこの状況に危惧を抱いていた地元のNPO法人が、住民に対して「交通・移動」に関する勉強会やアンケートを実施したことが今回の取組の始まりである。この地域は周囲約7kmの土地でありながら、その高低差は82mもあり、その中を狭い道路が交差していることもあって、中々地元のタクシー会社も足を運んでくれない。ただ、周囲には地元自治体が運営するコミュニティバスの停留所もあり、1時間に一本とは言え昼間は定期運行されているので、そこまで足が伸びれば、その先の市役所や大病院等の周辺地域への移動も何とかなる。とにかく、地域内のラストワンマイルをどうするかが、大きな課題であった。

他方、地元自治体でもご多分に漏れず地域の人口減少と少子高齢化が進む見通しの中、公共交通の存続が地域の活力維持の重要な課題となることから、「地域公共交通会議」を2019年11月に立ち上げ、関係者による各種議論を重ねながら、地域特性を踏まえた持続可能な公共交通を構築するために「地域公共交通計画」を2022年3月に策定したのである。 

NPO法人の活動は新型コロナ禍もあり、当初計画通りには進まない状況であったが、足掛け4年計3回、述べ232運行の実証実験を重ね、今回地域にあわせた実現施策の一つとして、この「住民主体の自家用有償旅客運送の取組(名称は道しるべ移動サービス)」が正式に支援を受けることとなった。地域の活力維持の施策として自治体からお墨付きを得たことは、この活動が地域活性化に繋がるという大きな意味付けの一つとなる。サービスが目指すところは『健康で元高(元気な高齢者)でいるために、最大公約数ではなく、地域の細やかな課題や要望に応えていくこと。地元だからできること。格段に良くなるわけではないが「今より少し良くなる」』サービスである。高齢者に新たな移動手段を提供することで、買物や通院、或いは地域での交流など気軽に出歩ける機会が増え、併せてそこに新たな消費の機会が生まれるということは皆さんも容易に想像がつくだろう。

更に、ここに地元のNPOが主体となって自主運営されるサービスという特長が加わることで更なる付加価値が生まれると考えている。一つは自主運営ということで、行政や公共交通事業者と言った外部環境に影響を受けずに、サービスを硬直化することなく、地域の細やかな要望に柔軟に対応していくことで事業を継続していくことが可能となること。そしてもう一つが、地域の定年退職者や地域に貢献したい住民をドライバーに勧誘することで、将来はそのドライバーが次の利用者となり、また次のドライバーを勧誘するという好循環が生まれ、活動を住民自らが行っているというコミュニティ意識の向上が期待できる。何よりも地域活性化の重要なキーワードは、住民が孤立することなく、人と人とが繋がり続けていることではないだろうか。

サービス開始は今春を計画しているが、開始にあたってはまだまだ解決していかなければならない点が多々ある。特に事業の継続性は最も重要なテーマである。その為にも①運営体制②資金③ドライバー確保④公共交通事業者との調整⑤利用者の意識向上を、意識し続けていかなければならない。

「道しるべ移動サービス」の現在の会員数は、100名程度の小規模コミュニティで、広がりはまだまだこれからである。だが、同様な取組が同じような課題を抱える地域において進められることで、「高齢化社会先進国」の日本全体が人生100年時代において「高齢者が元気に暮らす先進国」になっていくことを大いに期待したい。

一般社団法人京都総合科学研究所 アドバイザー松村 道郎
1984年富士通入社。東京、名古屋、大阪にて大手製造業のお客様へソリューション営業として活動。2010年富士通タイランド副社長。2014年に帰国後、自動車業界向けの商品プローモーションと事業開発に従事し、MaaS事業を立上げ。その後日本の重要課題である地方創生・地域活性化に着目し、MaaS事業による課題解決に向けた各種提言を行う。現在は富士通を退職し、Mobilityに捉われず、高齢化、在日外国人、キャッシュレス等の様々な視点から、実践を通じて各種課題解決に向けた企画・提言を行う。
1984年富士通入社。東京、名古屋、大阪にて大手製造業のお客様へソリューション営業として活動。2010年富士通タイランド副社長。2014年に帰国後、自動車業界向けの商品プローモーションと事業開発に従事し、MaaS事業を立上げ。その後日本の重要課題である地方創生・地域活性化に着目し、MaaS事業による課題解決に向けた各種提言を行う。現在は富士通を退職し、Mobilityに捉われず、高齢化、在日外国人、キャッシュレス等の様々な視点から、実践を通じて各種課題解決に向けた企画・提言を行う。
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