第31回岡山県高校弁論大会 優勝「見えない壁の先に」

「我慢するしかなかった」
外国人技能実習生が涙ながらに語った言葉が私の胸に突き刺さりました。


2022年1月、岡山市の建設会社で働くベトナム人技能実習生が2年間に渡り複数の日本人従業員から殴る蹴るの暴行を受けていた被害が大きな問題となりました。テレビで暴行される映像が何度も流れましたが、これは氷山の一角にすぎないのではないかと思ったのです。

私の父はインドネシア人です。日本で働けば家族を楽にさせてあげられると信じて22年前に実習生として来日しました。日本の地を初めて踏んだ時、父は明るい未来が約束されたと思いましたが、現実は違いました。初めて聞く日本語と慣れない日本文化に戸惑いながら父は言葉の勉強をし、仕事を覚えていきました。

当初、日本人の優しさと礼儀正しさは世界一だと聞かされていましたが、日本語が上手く話せない父は馬鹿にされ、仕事の説明も理解できないからと最初から教えてもらえないだけではなく、皆が嫌がる作業や危険な仕事を一人でさせられることもあったそうです。片言の日本語で話す父に冷たい態度をとり「仕事が遅い。こんなこともできないのか」と罵声を浴びせ、無視することが当たり前になったのです。言いたいことも言えなかった父は、何を言われても我慢していました。何度もインドネシアに逃げ帰ろうと思いましたが、故郷で待つ父や母や兄弟など家族の顔が浮かび我慢したのです。

今 父は来日して23年目になりますが、日本語が話せても書けないと分かれば「うちの会社で仕事はできない」と言われ、1ヵ月で仕事を全て覚えられなければすぐに辞めることを採用条件に出されたこともありました。「外国人だから」という理由で正社員として働くことが難しいと何度も言われた父は、日本での外国人に対する壁の高さも痛感しています。非正規雇用で働く父は、いつ働けなくなるのか不安を抱えながらの生活で、安心して毎日を送ることができていないのです。


この春、外国人労働者や技能実習生に対して耳を塞ぎたくなるような事件が相次いで起こり、心配した家族の声に、父は初めて日本で受けてきた辛い現実を私達に話してくれました。「日本人は優しいから心配ない」と言っていた父ですが、実際は日本で不当な扱いを受けていたのです。そして、今まで誰にも話さなかったのは「家族を心配させたくなかった」という父の優しさからだと私は知りました。しかし、この問題は父が我慢し、父の優しさだけで解決できる問題ではないと思うのです。

厚生労働省が昨年八月に公表した調査によると、技能実習生が働く事業所の約7割で労働基準法や労働安全衛生法違反が見つかっています。日本で働く外国人労働者は172万人を超え、少子高齢化や人口減少社会の日本において、労働力不足を解消する一つの手段として外国人労働者の受け入れは今後も続いていくと考えられます。2030年には日本の働き手は644万人不足するとの調査結果も出ていますが、今でさえ深刻な労働力不足の日本で、外国人労働者なしでは多くの現場が回らないにもかかわらず、外国人への差別があることに衝撃を受けました。

外国人労働者として厳しい環境下で働き続ける父ですが、時には声をかけて助けてくれる日本人がいるから今まで働くことができた、とも話してくれました。悩んでいる時には「困った時はお互い様」と話を聞いてくれ、笑顔で労をねぎらってくれる人もいるのです。

 

私はこれからの日本のあるべき姿として、父のような外国人労働者をただの労働力だと捉えて不当な扱いをするのではなく、同じ社会を支えている大切な一人の人間として受け入れ認め合える社会を目指すべきだと強く思うのです。国籍は関係なく、どんな人でも一人の人間としてそれぞれが輝ける社会で受け入れられる日が来ることを信じて、私は見えない壁の先にある明るい未来を目指して生きていきたいのです。

おかやま山陽高等学校橘 里香サニヤ
2021年おかやま山陽高等学校入学。人前で自分の想いを伝えられるようになりたいとの思いから、スピーチ部に入部し、弁論を始める。1年生で中国地区代表として全国大会に出場。2年生では県高校弁論大会で優勝し、2年連続で全国大会への出場権を得る。自分の身近な問題である「日本でのハーフに対する無意識な差別」や「外国人労働者が抱える問題」を取り上げ、誰もが笑顔で活躍できる世界を目指そうと弁論を通して日々訴えている。
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