エイジズムは、「高齢者」の差別と特権を表している。「高齢者」とそうでない人を区別するのは、歴史的習慣だ。昔は高齢になると、ある種の不利を被る事が多かったからである。不利を被る原因の第一は、身体的衰え、第二は認知能力の衰え、第三には第一、第二と関連するが、稼ぐ能力の低下である。これらによって、文明が未発達の状態では多くの「高齢者」が不利を被ることになった。これに対する予防措置として「高齢者」を特別の地位に位置づける場合も多い。狩猟採集時代から、「高齢者」はその集団の特別な存在とされたこともある(そうしなければ悲惨な運命に陥る)。例えば、高齢で歯を抜いたり、治療する技術がない時代には、虫歯が広がると、痛みに耐え、食事は柔らかくしなければ食べることが出来ない。その時代では硬い肉が主体であったら、多分噛むことが出来ないので、次第に飢えてしまっただろう。また、移動を絶えず行っている集団で、足腰が弱くなったら置き去りにされるだろう。もし集団が「高齢者」を特別な存在としなければ、「高齢者」は見捨てられたのである。「高齢者」を特別とみなす習慣は、農耕が盛んになり、固定された土地に暮らすようなになってからも継続した。農耕生活では、狩猟採集時代よりも体力を必要としなくなったが、それでも体力は生きていくための大きな要素なので、引き続き、一部の「高齢者」は特別の存在として扱われた。
翻って、現代では、労働や生活に身体的能力の差が大きな影響を及ぼすことは少なくなった。殆どなくなったと言ってもよい。食事を作るのも、食事を摂るのも、洗濯、掃除などの生活にも体力を必要とはしなくなった。ただし、慣習的には「高齢者」は大きな意味を持つ。その意味は、「保護を与えるもの」として、その代価は「余り社会に出しゃばらないように」というものだ。この考えは、他の多くの差別に共通している。そうではなく、高齢になって筋力が低下し、記憶力が下がっても、現在の世界では一人で十分生活していくことが出来るのだ。昔とは違うのである。
97歳のドライバーが運転する車が暴走し、歩行者など5人が死傷した事故が起こった。逮捕された高齢ドライバーが運転免許を更新したのはおととしの夏ごろ、この際の認知機能検査では問題は確認されなかったという。「専門家」のコメントは、3年に1回の認知機能検査ではなまぬるい、毎年検査を行うように規制を強化すべきである、などなど・・・。今回事故にあった方々には気の毒としか言いようがないが、そうかと言って、1件の事故によって数百万人の移動手段を左右するような規制は好ましくない。高齢者に対して認知機能の検査を行うのなら、差別をしない前提では、すべての人に対して認知機能の検査を行うべきである。
「高齢者」にも移動の権利があり、運転する権利がある。障害者と同じように、運転に対して何らかの制約や補助具の必要性は「障害」があれば当然だが、単に「高齢者」での差別はエイジズムそのものだ。このような差別に対しては強く抵抗しなければならない。
また、重要なことを説明するときに、その対象が「高齢者」の場合は、家族や他の人の「同伴」が必要であると勧めている例も、病院や金融機関等において見られる。これらも「高齢者」の差別である。
日本社会は、「自分たち」と「彼ら」を分別し、差別する。「高齢者」、障害者(特に精神障害者)、あるいは受刑者、外国人などを自分たちとは異質の存在として差別する。この様な慣習は「多様性」とははなはだ乖離している。
「高齢者」の運転は次第に規制が強くなり、免許の自主返納を促している。高齢だけでは能力の低下はおこらない。何らかの障害が加わらないと能力低下は起こらないのだ。従って、年齢での差別はもうやめにしてほしい。高齢ではなく、何らかの障害があれば、その障害を補うような補助具を車に装備して運転を続けるようにすべきである。このような事故が起こると、障害を克服するような装備を求めるのでなく、「高齢者」の運転を規制するように、マスメディアが叫ぶのは不条理だ。特に現在のような、周囲の空気によって、免許の自主返納をせざるを得なくなり、社会からの隔離を強制されるのは、法治国家とはとても言えない状態である。
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